- 上田早夕里さんの小説『深紅の碑文』上下 あらすじと感想
- 完璧な世界観
- 3人の想い
- 青澄の人生記
- タイトル 「深紅の碑文」 に込められた意味
- 小さな抵抗
少しだけネタバレあります
オーシャンクロニクル・シリーズ!
上田早夕里さんの小説『深紅の碑文』上下 感想です。すっかり上田さんのSFの虜になってしまいました。オーシャンクロニクル・シリーズ『華竜の宮』に続き、姉妹編の『深紅の碑文』を読みました。
*前作『華竜の宮』のレビューはこちらです。
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もくじ
オーシャンクロニクル・シリーズ 完璧な世界観
オーシャンクロニクル・シリーズは 短編『魚舟・獣舟』から始まり、長編『華竜の宮』『深紅の碑文』と続いています。
短編を飛ばして『華竜の宮』から読んでも話の道筋はわかるのですが、『華竜の宮』を読まずに『深紅の碑文』を読んでしまうと混乱します。

ホットプルームの上昇によって陸地の大半が水没した世界。
この設定が完璧で素晴らしい。
その世界に暮らすのは 元々の人間・陸上民、人間を改変して海で暮らしやすくした海上民、海上民の兄弟・魚舟、魚舟が変異した獣舟、それから人工知性体・・・。
『華竜の宮』でも ちらっとでてきた海上民を改変した “ルーシィ” と呼ばれる新たな種族もでてきます。
シリーズ全体を通して描かれているのは 「生きる」 希望を捨てない人間の強さや、壮絶な争いでした。
『深紅の碑文』あらすじ
陸地の大半が水没した25世紀。
本の評価
おすすめ
かんどう
いがいさ
サクサク
【あらすじ】
陸地の大半が水没した25世紀。人類は 陸上民と海上民に分かれて暮らしていた。地球の危機、大異変が迫る中、資源を確保するために彼らの対立は増すばかりだった・・・。
『深紅の碑文』感想
リ・クリティシャス以来の第2の世界異変、そのあとにやってくる “プルームの冬” 到達前までの混乱した世界が描かれていました。
人類滅亡を前に交差する3人の想い
前作では 人工知性体がロケットにのって宇宙に旅立つところで終わっていました。
『深紅の碑文』のラストがあの『華竜の宮』のラストに繋がっていくのかな? ロケット打ち上げは胸が高鳴りますね。
主軸に描かれている登場人物は3人です。
- ラブカのリーダー・ザフィール
- 宇宙にロケットを飛ばすことを夢見る 星川ユイ
- 救援団体 (パンディオン) の理事長・青澄誠司
ひとりは海の生活のため、ひとりは空に想いをはせ、そしてひとりは海と陸が争いなく共存する世界を目指し―。
登場人物たちがまた良いんですよね。青澄誠司をはじめ、ラブカのリーダー・ザフィールも味があって素敵です。
彼は元医師だったけど、海賊のようなラブカのリーダーになるまでが凄まじく、行く末が気になりました。
パンディオン理事長・青澄の人生記

青澄さんが出てくると 自然と顔がほころびました。大好きな登場人物です。
『華竜の宮』では 外交官時代が描かれていましたが、本作では外交官を辞めて救援団体 (パンディオン) で奮闘する彼が大きく描かれています。
彼の信念は外交官時代と変わらず、陸と海とが平和に暮らす社会を目指していました。
大異変、そして “プルームの冬” が来ても混乱を減らすために。今回は青澄が心を許せる女性もでてきて、心がホワホワと温まりました。
前作では外交官時代が、本作では外交官を辞めてパンディオンを立ちあげてからの彼が描かれていました。
青澄と切っても離せないのが、アシスタント知性体のマキ。前作では男性として描かれていましたが、本作では女性に作りかえたマキが登場します。
『華竜の宮』で コピーマキを宇宙センターに預けたんですよね。彼女の存在もこのシリーズには欠かせません。
マキがいれるコーヒーが美味しそうで飲みたくなってしまいました。
「深紅の碑文」 に込められた意味
殺戮知性体が怖かったです。
AIが進み、人類をより環境に適応したものに作りかえる技術をもった人々の行く末の世界は、凄まじいものがあります。
“プルームの冬” が来る前に人類が滅んでしまいそうな争いがこれでもか!と描かれているんです。なんて愚かな・・・。
本書に書かれている一文に、心が凍りつきました。
〈大異変〉があってもなくても、人間社会は闘争を求めるだろう。悲しいかな、それが人間の本質である。
悲しくなりますが、確かに世界から戦争という文字はなくなりません。人間が持つ弱さ。生きるためとはいえ、この小説は血みどろの争いが描かれているんです。
「深紅の碑文」 の意味
深紅というのは 争いで流された血を指しています。
そこには死んでしまった罪なき人々の叫びや無念・・・と言った様々な思いがあふれているんです。
胸を熱くする小さな抵抗
タイトルの意味にビビりながらも、小説の魅力はそれだけには留まりません。「見えない十人」 という組織や、救世の子たちもミステリー感があって面白い。
そして人々の根底にあるのは 結局のところ 「生きるため」 、種の存続のためという思いです。これは理解ができるし共感もできる。
どれだけ文明が進んでいても、人類滅亡の危機が目前に迫ってしまえば避けられない。人間の抵抗なんて小さなものに見えます。
でも、そんな中で奮闘する青澄やザフィール、星川ユイを見ていると、小さな抵抗が胸を熱くするんです。下巻ではウルっとくるシーンがいくつかあって、何度泣いたか・・・。
大異変後、種の存続は可能なのか?
宇宙に旅立った人工知性体の話、新人類のルーシィの話・・・。いろんな登場人物のその後が気になります。これは続きが読みたい!!
嬉しいことに 新人類・ルーシィを描いた続編 (?) が 今執筆されている最中とか。とても楽しみです。
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