『銀河英雄伝説10 落日篇』ネタバレ感想文・あらすじ|最終巻の時系列・ラストに号泣|田中芳樹
- 『銀河英雄伝説10 落日篇』あらすじと感想文
- 簡単な時系列
- オーベルシュタインの草刈り
- ユリアンの奇策
- シェーンコップの最期
- ラインハルトの最期
- 本伝全10巻を読んで感じたこと
ネタバレあります。ご注意ください。
宇宙を手に入れたら……みんなで……
田中芳樹さんの小説『銀河英雄伝説10 落日篇』読書感想です。銀英伝、本伝の最終巻。・・・とうとう読み終わっちゃった。感無量です。
読み終わると寂しいものだ・・・。まだ外伝の楽しみはあるけど。
華々しい物語が9巻辺りから縮小に向かっていく。多くの犠牲も伴い、最後は寂寥感ある終わり方でした。
田中芳樹さんの小説は、以前に『アルスラーン戦記』(全16巻)を読んでいます。そのときにも作者の筆力を感じたけど、『銀英伝』は完全にその上をいっていますね。
ほんとに素晴らしい。筆力に圧倒されたよ。
『銀河英雄伝説10 落日篇』あらすじ
『銀英伝』最終巻
腹心の部下ヒルダを皇妃に迎え、世継ぎの誕生を待つばかりとなったラインハルト。旧同盟領に潜む地球教残党のテロ、元自治領主の暗躍、度重なる病の兆候など懸念は尽きないが、数々の苦難を経て、新王朝はようやく安泰を迎えたかに見えた。一方、“魔術師ヤン”の後継者ユリアンは、共和政府自らが仕掛ける最初にして最後の戦いを決断する。銀河英雄叙事詩の正伝、堂々の完結。
『銀河英雄伝説10 落日篇』時系列
『銀河英雄伝説10 落日篇』は、宇宙暦801年初頭〜半年間(+少し)が描かれています。時系列を簡単にまとめました。
惑星ハイネセンにて、反国家的暴動
ワーレンの元に通信が入る。イゼルローン軍VSワーレン→イゼルローン軍の勝利
現地の秩序破壊行為に対処するべく、ビッテンフェルトを伴いハイネセンへ向かう
ハイネセンに居住する〝危険人物〟を強引に連行しはじめる
虜囚の解放を望むのであれば、イゼルローン共和政府と革命軍の代表者はハイネセンに出頭せよとの宣告
ラグプール刑務所で暴動
オーベルシュタイン、逃亡中の国事犯アドリアン・ルビンスキーを逮捕、拘禁する
帝国軍とイゼルローン共和政府による外交交渉が開始される
柊館で出産の日にそなえていた皇妃ヒルデガルド・フォン・ローエングラムが地球教のテロリストに狙われる→ケスラーにより救出
未来の銀河帝国ローエングラム王朝第二代皇帝(ラインハルトとヒルダの子)が誕生
ケスラー、エフライム街四〇番地にある地球教の活動根拠地を包囲
- 【帝国軍】前衛にミッターマイヤー、左翼にアイゼナッハ、右翼にビッテンフェルト、後衛にミュラー、ラインハルトの側に幕僚総監としてメックリンガーを配置
- ラインハルト、発熱し倒れる
- イゼルローン軍、帝国軍艦隊ブリュンヒルトに侵入
- 艦隊ヒューベリオンに閃光の塊が炸裂→メルカッツ、死亡
- 艦隊ブリュンヒルトにて白兵戦の末、シェーンコップ、死亡
- 艦隊ブリュンヒルトにて、マシュンゴ、死亡
- ユリアン、ラインハルトの元へ→講和成立、戦闘の終結
イングルウッド街の病院で監視下に置かれていたルビンスキー、みずからの手で生命維持装置をはずし死亡
自殺することで生じたルビンスキーによる爆発炎上事件。極低周波爆弾を爆発させて、皇帝を道づれにすることをねらったが失敗に終わる
- フェザーンに帰国したラインハルトの病状悪化
- 地球教によるテロが起こる
- 地球教ド・ヴィリエ、死亡
- 帝国軍務尚書オーベルシュタイン、テロにより死亡
皇帝ラインハルト、逝く。享年25、治世満2年余
地球教とルビンスキー、イゼルローン共和国との戦いが苛烈。皇帝ラインハルトの病状悪化・・・。
目まぐるしい半年間だけど、皇子が誕生したのはほっこりした。
最終巻で、とうとう2人の英雄のうちのもう1人も天に召されます。ラインハルト亡き後もローエングラム王朝は続いていくから、明るい未来を感じられました。
戦いは白熱だったけど、しんみりしてしまう最終巻ですね。
『銀河英雄伝説10 落日篇』ネタバレ感想文|銀河帝国軍vsイゼルローン革命軍
『銀河英雄伝説10 落日篇』で印象に残ったのは、銀河帝国軍とイゼルローン革命軍の宇宙戦争、そしてラインハルトの最期です。
- オーベルシュタインの正論
- ユリアンの奇策
- シェーンコップの最期
銀河帝国軍vsイゼルローン革命軍の戦いでは、この3つが特に印象に残ったよ。
オーベルシュタインの草刈り&彼の最期
パウル・フォン・オーベルシュタインは、銀河帝国の軍務尚書です。ラインハルトが皇帝になる前から彼の元で活躍してきました。
「ドライアイスの剣」との異名をもつ冷徹無比の元帥。
オーベルシュタインがまた味のあるキャラなんですよね。冷徹で周りからは嫌われているけど、彼の言うことは毎回毎回、正論。
〈落日篇〉では「オーベルシュタインの草刈り」事件が描かれていて、さらに磨きがかかっていました。
ハイネセンに居住する〝危険人物〟を強引に連行し、虜囚にした事件。
目的は、虜囚を人質にして、イゼルローン軍に開城を迫るためです。一見、卑怯な手段にも思えるけど、彼なりの強い意思があったのですよね。
一〇〇万の将兵の生命をあらたに害うより、一万たらずの政治犯を無血開城の具にするほうが、いくらかでもましな選択と信じるしだいである
わかりやすく言うと、「戦いで100万人の兵を犠牲にすることよりも、1万たらずの政治犯を使ってイゼルローン軍に開城を迫ることの方がマシ」・・・ということ。
血が流れない平和的な思想。
ただ、皇帝ラインハルトを始めとする帝国軍の提督たちは納得しないでしょうね。彼らは、正々堂々と戦って勝つことに意義を感じているからです。
・・・まぁ、それが『銀英伝』の魅力の一つでもあるのだけど。
猛然と問い詰めるビッテンフェルトに放ったオーベルシュタインの言葉がすごい。
帝国は皇帝の私物ではなく、帝国軍は皇帝の私兵ではない。皇帝が個人的な誇りのために、将兵を無為に死なせてよいという法がどこにある
その正しさと冷徹さゆえに周りの人に嫌われているけど、毅然としているオーベルシュタインが気になりました。
彼はずっと「No.2不要論」を唱え続けてきた人物。ヴェスターラント核攻撃やキルヒアイスの最期を思い出すと、心にさざ波がたちます。
オーベルシュタイン、なかなか味がある人物なんだ。
冷徹無比の軍務尚書にも優しい面(?)もあるから面白い。
オーベルシュタインの最期
地球教のテロに巻き込まれ命を落としたオーベルシュタイン。彼の最期の言葉も印象に残りました。
犬にはちゃんと鳥肉をやってくれ。もうさきが長くないから好きなようにさせてやるように
飼い犬の心配・・・。彼らしくないような、彼らしいような最期ですね。
ユリアンの奇策
銀河帝国軍との宇宙戦争で、ヤンのように奇策を用いたユリアンが大活躍。
8巻でヤンは帰らぬ人となったけど、最終巻まで彼の面影がちょこちょこ描かれているから寂しくありませんでした。
ユリアンが用いたのは、全艦艇の一割を無人艦にして左翼後方に配置し、兵力がたくさんあるように見せかける策です。
ハッタリのようだけど面白い。
体調を崩していたラインハルトは、ユリアンの奇策を見抜けません。最終巻にもなるとラインハルトの病状が悪化していました。
いつもの彼なら見抜いていたよね・・・。
自由惑星同盟を制圧したころから覇気がなくなってきたラインハルト。最終巻は、物語が終焉に向けて収束していく様子に寂寥感を感じました。
シェーンコップの最期と戦いの終結|艦隊ブリュンヒルトでの白兵戦
皇帝の白い艦隊ブリュンヒルトにイゼルローン革命軍が侵入し、戦いは終結を迎えます。
ブリュンヒルトに侵入したのは、ユリアン、ポプラン、マシュンゴ、シェーンコップなど。
シェーンコップの最期
元、薔薇の騎士(ローゼンリッター)連隊長ワルター・フォン・シェーンコップの最期がカッコよかったです。
「さて、誰が名誉を背負うのだ? ワルター・フォン・シェーンコップが生涯で最後に殺した相手、という名誉をな」
シェーンコップ、なかなか倒れないんだ。
出血しながらも不敵な笑みを浮かべ、戦斧(トマホーク)を振るう姿を想像すると、畏怖の念を抱きます。・・・まるで魔王のよう。
白兵戦の後、艦隊ブリュンヒルトで命を落としたシェーンコップ。見事な戦いっぷりでした。
敵の艦隊に侵入し、白兵戦を繰り広げるのはイゼルローン回廊での戦い以来ですね。4巻〈策謀篇〉でのロイエンタールとの一騎打ちです。
シェーンコップは戦斧が似合うな。
仲間の犠牲を伴いながらも皇帝の元へたどり着いたユリアンを見て、ラインハルトは戦いの終結を宣言します。
帝国軍とイゼルローン革命軍の講和成立。
この戦いでは、イゼルローン革命軍のメルカッツ、シェーンコップ、マシュンゴが犠牲となりました。
号泣!ラインハルトの最期|宇宙を手に入れたら……みんなで……
ラインハルトは死の直前、何を見ていたのか。最期の言葉が幸せな光景を連想させます。
「宇宙を手に入れたら……みんなで……」
ラインハルトとキルヒアイス、アンネローゼが笑いあっている光景が思い浮かびました。
ついに叶うことなかった願いだけど、ラインハルトの原点はここにあるんですよね・・・。
宇宙を手に入れる前の、キルヒアイスとアンネローゼと3人で過ごした幸せな時です。たぶん彼の中では1番輝いていたひととき。
最後に幸せな光景を目にして逝ったと思ったら、救われる気持ちになった。
『銀河英雄伝説』は、ラインハルトの最期とともに幕を閉じます。・・・華々しく活躍した彼は穏やかに息を引き取りました。
変異性劇症膠原病。
穏やかな生活を望んでいたヤンがテロで命を落とし、自らが戦いを望み、華々しく活躍したラインハルトが病に倒れるとは皮肉なものです。
この子に、対等の友人をひとり残してやりたいと思ってな
わが子アレクサンデル・ジークフリードに友人をつくっておいてやりたい―
子どもの名前にキルヒアイスの名字「ジークフリード」を入れたことにも泣けるけど、友人を作ってあげたいとの願いにも号泣。
「対等の友人」という言葉に、ラインハルトの切実な思いを感じます。
幼いころから何でも言い合える仲だったラインハルトとキルヒアイス。でも、その関係が崩れかけた2巻の最後。
ラインハルトは、何よりもキルヒアイスという友人を大切に思っているんですね。過去も現在も・・・。
亡き友人に思いを馳せたよ。
『銀河英雄伝説』魅力・本伝全10巻を読んで感じたこと
『銀英伝』ひとまず本伝全10巻を読み終わって感じたのは、田中芳樹さんの圧倒的な筆力のすごさです。
特に感動したのが登場人物の最期。とても丁寧に愛情が込められて描かれていました。
ルッツ、ロイエンタール、シェーンコップ、オーベルシュタイン、ビュコック、メルカッツが印象に残っています。
2人の英雄の片方がいなくなってからも物語は加速。面白さが全く失われないのには頭が下がりました。
キャラの大半が死ぬけど、予期できるから突然って感じもしなくて違和感がなかったです。
後世の歴史家の視点もちょこちょこ挿まれているからだね。
『銀河英雄伝説』と言えば、まず登場人物の多さに目を見張ります。・・・これ、かなり混乱するんですよ。
「なんでこんなに登場人物が多いんだー」と思ったけど、頭に入ってくると面白い。今まで気にも止めなかったキャラに味が出てきて、好きになることが度々ありました。
別館ではアニメのレビューも書いてるよ。