- 高畑京一郎さんの小説『タイム・リープ あしたはきのう』あらすじと感想
- 鹿島翔香に起こった時間飛躍
- 日曜日の出来事
- 高評価な理由
- 作者の遊び心
私の『明日』は、いつ?
高畑京一郎さんの小説『タイム・リープ あしたはきのう』感想です。高畑さんの本を読むのは2冊目。
文庫本 上下巻ですが、一気に読んでしまいました。タイトルからも分かる通り、時間を扱ったSF小説です。もっと早くに読めばよかった。
『タイム・リープ あしたはきのう』あらすじ
あしたはきのう、かもしれない!?
高校に通う鹿島翔香は ふしぎな出来事に遭遇する。昨日の記憶が全くないのだった。彼女は不安に思いながらも 若松和彦に相談するが・・・。
『タイム・リープ あしたはきのう』感想
ラノベなのに 時間SFとしてレベルが高い本。矛盾がないのがすごいです。
鹿島翔香に起こった時間飛躍

初めは火曜日
主人公の鹿島翔香は 月曜日の記憶がまるまる抜けていることに気づく。
『タイム・リープ』というタイトルから、この時点で 「あ、時を跳んだんだな」 とわかるけど 彼女は混乱します。
「タイムリープ」 や 「タイムトラベル」 などの時間SFもので読んだことがあるのは、筒井道隆さん『時をかける少女』、北村薫さん『ターン』や『スキップ』。

夢中で読みました。パズルのようにたくさんの複雑なピースが全て嵌ったときに、 「そうか、この記述はこのことを指していたんだ。だから・・・だったんだ」 と 満足感が得られます。
タイムリープって?
そもそも 「タイムリープ」 ってどういう現象なのでしょうか。
【Time-Leap】とは・・・時間飛躍。肉体はそのままで記憶だけ入れ替わる現象のこと。
体はそのままで意識だけが入れ替る状態です。「タイムトラベル」 のように過去に行ったら私が2人・・・という現象にはならないのが 「タイムリープ」 。
翔香が危ない目にあうと (階段から落ちるなど) 時間飛躍がおきる。日曜日から火曜日に行ったり、飛ばした月曜日に戻ったり・・・。
そして朝目覚めるときは危険がないと分かっている日にまたリープする。翔香の不安な気持ちが伝染しました。力になってくれたのは、クラスメイトの若松和彦です。
彼がまたカッコ良いんですよね。頼りになる少し大人びた男の子でした。
あしたはきのう

1週間の間に時間飛躍がたびたび起こります。サクサクと読めるけど、たびたび時系列が乱れるから、おや?となる。
ここで重要なのは・・・、1度過ごした時間は再び過ごさないということ。
この現象を分かりやすく説明しているところがあります。
たとえば、映画を見るとする。そのまま見れば、なんの苦労もなくストーリーを追える。だが、フィルムを引き出し、あっちこっちでぶった切って、順不同に入れ替えてつなぎ直したら、どうなると思う?
翔香の明日は明日とは限らない。あしたはきのう、かもしれない。
前後の状況 (過去や未来) は 順不同になっています。時間は決して重ならないし、時系列はバラバラでも1週間で区切るとトータルでは全ての時間をちゃんと生きているんです。
日曜日に何があったのか?
問題になってくるのは、いつ 「タイムリープ」 が始まったのかです。
どうやら日曜日に何かがあったらしい。翔香にとって危険な出来事があったから、彼女は時間をリープしてしまったんですね。
防衛本能から、彼女の記憶は抜け落ちています。それを見事に、勇敢に立ち向かう和彦がとても頼もしく思えました。
『タイム・リープ あしたはきのう』が 高評価な理由
本書は読みやすいし、分かりやすい。ラノベを超えて本格的なSFと言っても良いくらいです。高評価の理由に納得しました。
矛盾がありません。一つ一つがパズルのピースのような感じで最後には余りなくぴたっと収まる。
たとえば 日曜日から火曜日に飛んで月曜日をまだ経験していない翔香が、クラスメイトの行動を怪訝に思っても、後で月曜日を経験することでパズルのピースが嵌ったように腑に落ちる。
それがたびたび繰り返されて、読者も一緒に味わうんです。難しいところがなくて、登場人物のキャラも良いからかサラサラと読めるんですよね。
高畑京一郎さんの遊び心
ベタ褒めしちゃうくらい素晴らしい作品です。ストーリーや展開、伏線回収は完璧。そして所々に高畑さんの遊び心が描かれていました。
「タイムリープ」 について相談する翔香に和彦が言ったひとことに、筒井さんの『時をかける少女』を連想したり・・・。
それから最後。高畑京一郎さんの『クリス・クロス 混沌の魔王』の登場人物が出てきました!リンクしてるんですね。
ちなみに本作は映画化されているようです。小説が良かっただけに映像を見るとがっかりしてしまいそうなので、ためらってしまいます。・・・気にはなりますが。


