『箱庭の巡礼者たち』ネタバレ感想文・あらすじ|ワクワクが止まらないSFファンタジー|恒川光太郎
- 『箱庭の巡礼者たち』あらすじと感想文
- 6つの異世界と不思議な道具について
- 「箱のなかの王国」
- 「スズとギンタの銀時計」と「物語の断片2 静物平原」
- ルルフェルとミライ・リングテルの旅の記録
ネタバレあります。ご注意ください。
神々の落としものが、ぼくらの世界を変えていく。
恒川光太郎さんの小説『箱庭の巡礼者たち』読書感想です。これは面白いですね。6つの世界が描かれた短編小説なんだけど、全てに繋がりを感じる物語でした。
時空を超えて旅する少年と吸血鬼。彼らが出会った不思議な道具とは?
まるでドラえもんの秘密道具のようだった。
恒川光太郎さんと言えばホラー・ファンタジーが多いイメージだけど、今回はSFファンタジーです。
行ってみたくなるんですよね。たとえ一方通行だったとしても、恒川さんが描く異世界に・・・。
『箱庭の巡礼者たち』あらすじ
SFファンタジー
ある夜、少年は優しい吸血鬼を連れ、竜が棲む王国を出た。祖母の遺志を継ぎ、この世界と繋がる無数の別世界を冒険するために。時空を超えて旅する彼らが出会った不思議な道具「時を跳ぶ時計」、「自我をもつ有機ロボット」、そして「不死の妙薬」。人智を超えた異能(ギフト)がもたらすのは夢のような幸福か、それとも忘れられない痛みか。6つの世界の物語が一つに繋がる一大幻想奇譚。
『箱庭の巡礼者たち』6つの異世界と不思議な道具
『箱庭の巡礼者たち』は、6つの異世界と「物語の断片」からなる短編小説でした。
合間に描かれた「物語の断片」が良い味出してるんです。この断片を読むと、全ての異世界が繋がっているように感じました。
ひとつひとつの物語が魅力にあふれていて、「物語の断片」を読むとより奥が深まる。
物語をさらに面白くしているのが、不思議な道具「時を跳ぶ時計」「自我をもつ有機ロボット」「不死の妙薬」です。
使いこなすにはちょっぴり勇気がいるけど・・・。もしも手元にあったらと想像するとワクワクが止まりません。
「時を跳ぶ時計」が気になる。
『箱庭の巡礼者たち』ネタバレ感想文|繋がる異世界
6つの物語の中で一番好きなのは「箱のなかの王国」です。
箱のなかに広がる異世界は、見ているだけでもワクワクが止まらなくなりますね。ファンタジー感が強くて魅了されました。
不思議な光景。
不思議な道具が出てくる「スズとギンタの銀時計」と「円環の夜叉」も良かったです。
時を跳ぶ時計が魅力的でした。それを使うことによって、他の世界に影響が出てしまったかもしれないのは怖いけど・・・。
「箱のなかの王国」魅力あふれる箱庭世界
第一話から物語に惹きつけられました。恒川さんが描く異世界「箱のなかの王国」です。
主人公・内野陽が拾った大きな黒い箱。その中には森があって、城や家、塔のようなものがありました。時間の進み方はズレているけど、確かに存在しているのです。
箱庭世界は一方通行なんだ。こちらから行けるけど戻れない。
箱庭世界がまたリアル感があって、暴力と殺人が横行しているところでした。
- 城の騎士たちが定期的に町の人間を殺している
- 町では死刑にする人間を決める投票がある
- 正体不明の殺人鬼がいる
- 獣の血を吸う吸血鬼と竜が存在している
こんな世界には行きたくないと思いつつも惹かれるのも事実。陽は同級生の絵影久美と一緒に箱庭世界を見守ります。
眺めるだけというのが歯がゆいけどね。
箱庭世界の全体が見えるから、眺めてる方には「正体不明の殺人鬼」が誰なのかわかるんですよね。・・・だから異世界に行ってしまった久美の気持ちもわかります。
後に陽が出会った老人の言葉が心に響きました。
あの箱は人を魅了する。私の妻は、かつてあの世界にいった。君のガールフレンドと同じようにね
リアル世界での人生が嫌になったとき、または楽しみつくしたとき、違う世界に生きるのも悪くはないかもしれません。
確かに異世界は人を魅了する。
「スズとギンタの銀時計」と「物語の断片2 静物平原」時を跳ぶ時計
「スズとギンタの銀時計」と「物語の断片2 静物平原」には、時を跳ぶ時計(銀時計)がでてきます。
2つは別次元の物語なんだけど、銀時計で繋がっているんですよね。時を跳ぶアイテムに、怖くも惹かれました。
銀時計は一方通行なんです。いけるのは未来だけで過去には戻れません。3時間後〜最大で50年後まで。
時を飛んで何ヶ月分もの家賃収入を一瞬で手に入れたスズとギンタはズルをしてる?
そう思わなくもないけど、時間跳躍は魅力。
ただ、魅力なまま終わらないのが恒川さんの作品です。時間跳躍をしたことでスズとギンタは追われる身に・・・。
「一言でいえば、〈誰かが自分を捜して追いかけている気配〉なんだよ」
その誰かとはこの世ならぬ者たちでした。巨大な大蛇がいて、その大蛇の上には神輿が載っていて・・・。この辺り、ホラー感があって恒川さんらしいですね。
スズとギンタが使った銀時計は、その後「物語の断片2 静物平原」にでてきます。
ミライ・リングテルが訪れたタンガース平原の時間静止像群(パラファクト)の中から・・・。
パラファクトとは、千年間ずっと時間静止した三十万の人々と、草木も含めて止まってしまった生物たちです。
もしかしたら、別世界で銀時計を使うことで起きた〈時空矛盾の皺寄せ〉が、タンガース平原のパラファクトを引き起こしたかもしれません。
次元をこえて、この世界に影響を及ぼすなんて・・・。
面白すぎる、怖いけど。
タンガース平原に行ってみたくなりました。時間停止した三十万の人々は、戦争の真っ只中で止まってしまった兵士たちです。・・・きっと圧巻の光景でしょうね。
「物語の断片」ルルフェルとミライ・リングテルの旅の記録
「物語の断片」を読むと、別次元に展開された6つの物語が全て繋がっているように感じました。
「物語の断片」は、吸血鬼ルルフェルと少年ミライ・リングテルの旅の記録を綴ったもの。ルルフェルの冒険記と言っても良いかもしれません。
彼らが住む世界は、一番はじめの物語で描かれた「箱のなかの王国」。そこから次元鉄道に乗って、さまざま世界に旅立ちます。
行ったり来たりできる世界もあり、一方通行の場合もある無数の世界。
一つの世界を箱とすればその箱の他にも他の世界、無数の箱が存在し、それらが一方通行、あるいは相互通行可能の秘密の細道で繫がっている
世界が繋がっているとわかると、行ってみたくもなるよね。
銀時計のように別世界に影響がでてしまったりするのは怖いけど、面白かったです。
ひとつの物語を読んだだけでは見えない繋がりが、全て読むと見えてくる。これが圧巻で深みが増しました。
もしかしたら、今いる世界も別のどこかの世界の影響を受けて成り立っているのかも。
『箱庭の巡礼者たち』読書で異世界めぐりが楽しめる一冊
『箱庭の巡礼者たち』は、読み手も一緒に異世界の旅を楽しめる一冊です。
6つの世界は全て繋がっていました。異世界で別世界の登場人物のことが描かれるのは楽しいですね。
短編集なんだけど、長編小説を読んでいる感覚。これは面白い!
また新たなルルフェルの物語を長編で読んでみたくなったよ。