『滅びの前のシャングリラ』あらすじ・ネタバレ感想文・結末|崩壊した世界で見つけた幸せ|凪良ゆう
- 『滅びの前のシャングリラ』あらすじと感想文
- タイトルの意味について
- 壊れた日常と世界
- 最後に見つけた「幸せ」
- 『滅びの前のシャングリラ』結末
- おすすめの本
ネタバレあります。ご注意ください。
今になって、もう少し生きてみてもよかったと思っている
凪良ゆうさんの小説『滅びの前のシャングリラ』読書感想です。初めて読む作家さんでした。
地球が滅びるまでの一ヶ月を描いた物語。
この設定にひかれたんですよね。終末を迎えて、自ら滅びていく人々の光景は予想通り。でも「愛」を感じる温かな物語でした。
ウルッときたところもあったよ。
『滅びの前のシャングリラ』は、初回限定で小冊子がついてくるようです。本作の書き下ろしスピンオフ短編「イスパハン」。
私はKindle版で読んだので、そちらは未読です。
『滅びの前のシャングリラ』あらすじ
一ヶ月後に地球が滅びる!?
一ヶ月後、小惑星が衝突し地球は滅びる。学校でいじめを受ける友樹、人を殺したヤクザの信士、恋人から逃げ出した静香。そして―荒廃していく世界の中で、四人は生きる意味を、いまわのきわまでに見つけられるのか。
『滅びの前のシャングリラ』ネタバレ感想文・解説|崩壊した世界とユートピア
『滅びの前のシャングリラ』は、地球が滅びるまでの一ヶ月、どう生きていくかを描いた物語です。
みんながみんな「幸せ」に生きていけるわけではないけど、崩壊した世界で「幸せ」を見つけた登場人物に切なくもほっこりしました。
読後感は良かったよ。
タイトルの意味に込められた「ユートピア」|崩壊した世界で手にした幸せ
『滅びの前のシャングリラ』は4つの章からなり、それぞれスポットを当てた4人の登場人物で展開されます。
「シャングリラ」→「理想郷」、「パーフェクトワールド」→「理想の世界」、「エルドラド」→「黄金郷」、「いまわのきわ」→「死ぬ間際」ですね。
注目したのは、最後の「いまわのきわ」を除いて、どれもユートピアを思わせるタイトルになっていること。
地球が滅びる前の一ヶ月なのに。
タイトルに違わず、まさに最後にみつけた「ユートピア」が描かれていました。・・・ただ周りは荒れ果てて崩壊した世界です。そのギャップが斬新なんですけどね。
地球が崩壊すると知らなかった時よりも、知ったあとの方が「幸せ」を掴んだように見える4人。
良かったと思いつつも、もっと早くに気づけば・・・と、切なくもなりました。
壊れた日常と世界|地球崩壊まで一ヶ月
好きな女の子・藤森さんを守るためにクラスメイトを殺めてしまった高校生の友樹。
そうしなければ生きていけないくらいに荒れ果てた世界が描かれています。地球が崩壊するまでの一ヶ月は地獄と化していました。
たった数日で善悪の境目はぼやけ、とにかく食べて生きることが優先され、ぼくは人殺しになり、盗人になり、たかが八十円のありふれたソーダバーが貴重品となった
こうなるのは予想できてたよ・・・。
新井素子さんの小説『ひとめあなたに・・・』を連想しながら読んでいました。こちらは地球が滅びるまでの一週間が描かれた衝撃作です。
『滅びの前のシャングリラ』も『ひとめあなたに・・・』で描かれた街と同じような様相になるのかなと。
割れたショーウィンドウ、盗難、暴力、殺人、女狩り・・・。あちこちで人が死んでいてパニックになってる世界にゾッとしました。もうこれは、地球が滅ぶ前に壊滅してますよね。
一ヶ月あると、その光景も日常になってくるんだ。
背景は恐ろしいけど、キャラの明るさからか、描き方からか、『ひとめあなたに・・・』ほど怖さは感じません。
壊れた世界で友樹は彼女を守り、やがては母と死んだと聞かされていた父と一緒に暮らせるからです。
最後に見つけた「幸せ」と「生きる意味」
友樹の母・静香は、この壊れた世界で「幸せ」を見つけました。
見知らぬ街の惨殺された老夫婦の家で、十八年も前に別れた男と、息子と息子の好きな女の子というメンバーで、あと三週間で人類が全滅するだろうという朝にのんびり食卓を囲んでいる
幸せな一家団欒の風景。
地球が滅ぶおかげで、友樹の父と再び出会うことができた静香。惨殺された老夫婦の家で暮らす・・・のにはギョッとするけど。
信士もそうです。今まではヤクザでろくでもない人生だったけど、残りの3週間を静香と息子と、そのガールフレンドと必死に生きていました。初めて「生きる意味」を見い出せたのです。
願わくば、もっと早くに見つけてほしかった。どうして「幸せ」に気づくのは、いつも最後の最後なんだろう。
一生懸命生きる姿にジーンとくるけど、切なさも残ります。・・・こんな世界になって初めて、日常のありがたみに気づくのかもしれません。
「いまわのきわ」路子
『滅びの前のシャングリラ』では、もう一人、世界が壊れてから心境が変化した人が出てきます。
「いまわのきわ」の路子。彼女は生きることに絶望していました。ずっと自分を偽って生きてきたからです。でも地球が滅びることを知って、
明日死ねたら楽なのにと夢見ていた。その明日がついにやってきた。なのに今になって、もう少し生きてみてもよかったと思っている
最後の一ヶ月は素のまま生きて、本当に楽しそうだったよ。
「死」を意識して初めて気づいた、誰でもない自分のための自分の人生。「幸せ」や「生きる」って何だろうと考えてしまいました。
『滅びの前のシャングリラ』結末|「生きる意味」「幸せ」を問う
『滅びの前のシャングリラ』は、地球が滅びる日でラストを迎えます。
たぶん、そのまま滅びる結末。滅びる寸前で終わるんだけど、この結末で良かったです。これで滅びなかったら、えっ!?・・・と絶句しちゃうと思うから。
登場人物の心情を読みながら、改めて「幸せ」や「生きる意味」について考えたくなる一冊でした。
なるべく後悔しないように生きていきたいな。
こちらもおすすめ!『ひとめあなたに・・・』
『滅びの前のシャングリラ』を読みながら、頭から離れなかった、新井素子さんの『ひとめあなたに・・・』。こちらも面白いのでおすすめ。
「地球が滅びる」設定は一緒ですが、面白さのポイントは全く違います。そもそも滅びるまでのカウントダウン(期間)が違うから、全く別の小説と言ってもよいかも。
- 『滅びの前のシャングリラ』滅びるまで一ヶ月→パニックになり、でも一ヶ月あると少し落ち着く感もある
- 『ひとめあなたに・・・』滅びるまで一週間→まさにパニック絶頂
一ヶ月か、一週間か。期間が違うだけで人々の心理も違ってくるよね。
『ひとめあなたに・・・』は、ホラー感が強い物語です。狂った人にスポットを当てていて、怖いけど面白いんですよね。
狂った方が幸せだったりする?・・・とも思ったり、『滅びの前のシャングリラ』とはまた別の「幸せ」が垣間見えて衝撃。
一度読んだら忘れられないインパクトがあるよ。