『ひとめあなたに・・・』あらすじ・ネタバレ感想文|チャイニーズスープに絶句!新井素子
- 『ひとめあなたに・・・』あらすじと感想文
- テーマと圭子が出会う人々
- あなたの為にチャイニーズスープ
- 走る女
- 幸せと不幸は紙一重
- 生きる意味
少しだけネタバレあります。
ひとめあなたに、会いたくて。
新井素子さんのホラー小説『ひとめあなたに・・・』感想です。好きすぎてもう何回よんだことか。怖いんですよ。でもその怖さが面白くてハマりました。
新井素子さんの衝撃作。
チャイニーズスープに絶句した。
『ひとめあなたに・・・』あらすじ
地球最後の1週間!?
ある日、突然、恋人から別れを告げられた圭子。そして 「地球に隕石が衝突する」 という報道が流れた。圭子は彼に会いに 徒歩で練馬から鎌倉へ。道中、狂った様々な人たちと出会うのだった・・・。
『ひとめあなたに・・・』ネタバレ感想文|地球最後の1週間!?
『ひとめあなたに・・・』は、新井素子さんの衝撃作(・・・と私は勝手に思っている)。
一人称の独特な文章は好き嫌いは分かれるかもしれないけど、一度読んだら忘れられない物語です。最後は感動もありました。
初めて読んだのは学生のころだった。
隕石が地球にぶつかって滅びるまでの1週間。SFのようでいて、これはホラーです、まぎれもなく。最後はほんの少しだけラブ・ストーリー。
「チャイニーズスープ」の章がインパクト大なんですよね。
松任谷由実(当時は荒井由実)さんの「チャイニーズスープ」を聞くと、だれもが『ひとめあなたに・・・』を思い出してしまうだろうくらいに。
シチューの日は読んではいけません!!美味しく食べられなくなるので、お気をつけ下さい。・・・以上。
テーマと圭子が出会う人々
地球に隕石がぶつかる。設定は紛れもなくSFだけど、隕石を避けるための対策など科学的な要素は皆無。
設定だけSFなんだ。あとはホラーとラブが少しだけ。
もしも地球が滅びるとしたら、最後の1週間をどう過ごすのか。
テーマは”生きる意味”を様々な人たちを通して見つめ直すこと(・・・それについて感じたことは一番最後にまとめています)。
主人公・圭子(ケイコ)は、別れを告げられた恋人・朗(ロウ)の元へ走ります。練馬から鎌倉まで。道すがら様々な人たちと出会うのだけど・・・。
『ひとめあなたに・・・』は、圭子と他の人の視点とで交互に描かれています。
圭子が出会う人たちがみんな狂っていてホラーなんですよね。地球最後の1週間を過ごす4人の女性をまとめました。
1週間後に地球が滅びるのだから、この展開は致し方ない?・・・では割り切れない怖さがあった。
1番恐ろしかった由利子と、心に引っかかった真理にスポットを当てました。
「あなたの為にチャイニーズスープ」由利子
1番の怖さはこの章にある!!「あなたの為にチャイニーズスープ」。
「あなたの為にチャイニーズスープ」が怖すぎてインパクト大です。圭子が最初に出会う人物、純日本人形風の由利子が狂っていました。
あなたはわたしのお腹の中で、にんじんと一緒にとろけるの。そして、感じて。わたしの心臓の音を。そして、感じて。私の愛情……
由利子が夫の好きなシチューを作っているシーンです。この文章、何を意味しているかわかりますか?
由利子の夫・明広には愛人がいて、その愛人に会いに行こうとしたら・・・。極端なネタバレは避けますが、今想像された通りです。
新井素子さんの文章は独特で、描写がとても怖いね。
引用したものはまだ序の口なんです。・・・解体シーンなんかは読んでいるとゾッとしました。
松任谷由実さんの「チャイニーズスープ」という曲の歌詞に、こんな文章があります。
煮込んでしまえば形もなくなる
もうすぐ出来上がり
あなたのために Chinese soup
今夜のスープは Chinese soup
この曲を聞いていると、必ず『ひとめあなたに・・・』の由利子を思い出す。
煮込んでしまえば形もなくなる、もうすぐ出来上がり。・・・いったい、なにが出来上がるというの?
「走る女」真理
圭子が出会う女の子、「走る女」に登場する真理は大学受験勉強に勤しむ女子高生です。
彼女は、地球が滅びると知っても勉強をやめませんでした。読んでいて絶句です。・・・なぜ?受験はもうできないのに。
真理は受験勉強の他にやりたいことが何もなかったのです。だからレールの上をただひたすら走り続けるしかなかった。
自分の人生なのになぁ・・・。
あと1週間しかないというのに、何もやりたいことがない彼女を可哀想だと思うのは当然の感情ですね。でも真理が言ったひとことが衝撃でした。
「そうよ。あたしは、しあわせなの」
しあわせ。あと少しで地球が滅びるのに・・・。
真理は、もしもこのまま地球が滅びなかったら、走り続けられなくなることに恐怖を感じていたのです。
良い小学校に入るために勉強して、今度は中学受験、高校受験、大学受験。
大学に受かってしまったら、その先は?
考えなくてすむから大学に受かる前に人生が終わることになってホッとている。・・・彼女もどこか狂っていますね。
ちょっと切なくなっちゃった。
幸せと不幸は紙一重
『ひとめあなたに・・・』が怖いのは、自分が狂っていることに気づかない人々が描かれているからかもしれません。
傍から見ると不幸なのに、自分は幸せだと認識している。・・・まぁ、地球が滅びる設定だし、普通ではいられないのはわかるけど。
彼女たち(正気を失った人)は、みんな最後は幸せそうなのが印象的でした。幸せと不幸は紙一重です。
こういう状況だと、狂ってしまった方が楽(幸せ)なのかもね
でも、一旦狂ってしまったらそこから抜け出せなくなるという怖さも感じたり・・・。こんな世界では正気を保つ方が難しい。
ほんの少しだけ、大姫という人を連想しました。
鎌倉時代に生きて、父親に殺された義高をずっと想い続けた人です。薄幸の人と言われているけれど、彼女の中では幸せな人生だったのかもしれません。
幸不幸なんて結局はその人自身が決めること。他人が決められるものではない。
そうなんだけどね。由利子や真理をみていると、ちょっぴり悲しくなるんだ。
『ひとめあなたに・・・』生きる意味を問う
地球が滅びる=死です。
主人公と一緒に死を目前にして狂う人たちを見てきました。人は生まれたときから 実はもう死への道を歩んでいるんですよね。
ゴールは死、でも生きることに意味はある。
鎌倉にいる恋人の朗に会ったときに、圭子と一緒に私も感じました。
今まで生きてきた中で、たくさんの大切な人やモノたちに出会えたこと。それによって感じた喜び。
そういうのって、かけがえのない大切なものです。それに気づいて初めて生きる意味を見いだせるのかもしれませんね。
真理にもそれを分からせてあげたかったな。
ひとめあなたに会いたくて。
圭子の恋人を想う強い気持ちが、彼女を狂わせることなく鎌倉へと導いた。・・・そう思うと心が温まりました。最後はラブストーリーのような感じです。
「チャイニーズスープ」の衝撃が強すぎるけど、実は心温まるお話だよ。