『チグリスとユーフラテス』あらすじ・ネタバレ感想文|最後の子どもルナと生きる意味|新井素子
- 『チグリスとユーフラテス』あらすじと感想文
- コールド・スリープから目覚めた人々
- 永遠の子供・ルナの人生
- ルナが生きる意味
少しだけネタバレあります。
生きることに意味はあるの?
新井素子さんの小説『チグリスとユーフラテス』感想です。学生時代、新井素子さんの小説が好きでよく読んでいました。今読み返しても面白いですね。
人類最後の子ども・ルナを通して見えてくるものがありました。
『チグリスとユーフラテス』も大好きな一冊。
『チグリスとユーフラテス』あらすじ
なぜ母は私を産んだのか―
惑星ナインへ移住した人々。彼らは人工子宮を繰り返すことで繁栄したが、衰退の一途をたどる。ついに最後の子供、ルナが誕生した―。
『チグリスとユーフラテス』ネタバレ感想文
『チグリスとユーフラテス』は、生きる意味を深く追求した物語です。
惑星ナインにひとり取り残された最後の子供・ルナを見ていると、生きる意味って何だろう・・・と考えたくなりました。
なかなか深いストーリーだった。
コールド・スリープから目覚めた人々
惑星ナインにたったひとり残された子ども・ルナ。彼女は寂しさのあまり、次々とコールド・スリープで眠っている人たちを目覚めさせます。
目覚めた登場人物をまとめました。
- マリア・D(最初の犠牲者)・・・ルナの母の幼なじみ。生殖能力がある人達が優遇されていた社会背景で、彼女の人生は子供を産むために費やされた。子供が産めないと知った彼女の人生は破綻
- ダイアナ・B・ナイン(2番目の犠牲者)・・・惑星管理局に務める彼女の課題は「人類の生存」。自分の青春時代を犠牲にして、常にそのことのみを考えていた人生だった。その結果が最後の子供を生み出す
- 関口朋美(3番目の犠牲者)・・・芸術家の彼女はルナを無視し続ける。絵を描くことに費やした人生。ただ一人ルナを殺そうと決意するが、最後には生き甲斐を見出す
- レイディ・アカリ(最後の犠牲者)・・・龍一と共に惑星ナインに移民してきたナインの母。アカリは龍一と出会い、移民事業にその人生を委ねる。最後の子供が産まれた今、その事業は失敗に終わったと言える
コールド・スリープに入っていたのだから、彼女たちの寿命は永くはないんですよね。病気だったり高齢だったりします。
未来に希望を託して眠っていた彼女たちは、惑星が滅びかけたときに起こされる・・・。それでもルナを恨めなくて、彼女たちの絶望感が伝わってきました。
それぞれの賭けてきた人生はルナという最後の子供を生み出し、ナインが滅びゆく今、意味があったのか。
生きることに意味があるのかという疑問までわいてくるね。
永遠の子供・ルナの人生
『チグリスとユーフラテス』を読んで、生きる意味を考えたくなりました。
ルナに起こされた登場人物たちの生き甲斐はそれぞれだけど、朋美以外は結果を見れば何れも失敗に終わっています。その結果が最後の子供ルナなんですよね。
―なぜ母は私を産んだのか。
ルナは永遠の子供であることを社会から強要される人生でした。実際は7~80歳なのにフリフリのリボンのついた子供らしいものを着ていたり・・・。
大人になることを許されず、子供のままでいることでしか叶わなかった人生です。
想像すると奇妙で異様な雰囲気だ。
永遠の子供でいることは楽だけど、果たしてそれが幸せなのかどうか。
ルナは自分を最後の子供にした社会を憎んでいました。・・・そうですよね、そうなるのがわかります。
同時に私が生きている意味も考えていました。私はやりたいことがたくさんあります。やりたいことだらけで時間が足りないくらい。それは全部楽しいことや幸せを感じることで・・・。
楽しいことをして幸せと感じる瞬間が生きていることです。
ルナにはそういうことがなかったのかな。
ルナが生きる意味|そして母へ・・・
惑星ナインにひとり取り残されたルナ。彼女は生きる楽しみもなく、ただ復讐のために現在の自分の姿を見せつけるだけ・・・。
コールド・スリープから目覚めたアカリは、ルナに生きる意味を与えてくれました。
ルナが惑星ナインの母になる―。
動物、植物、昆虫など、全ての生き物に対しての母です。子供から大人へ、そして母へ。
守るものがある幸せ・・・というのもあるよね。
社会に復讐するためだけに生きていたルナが、やっと幸せを実感した瞬間。徐々に変わっていくルナの姿が印象的でした。