『帝国の娘 上下』ネタバレ感想文・あらすじ|夢中で読んだ「流血女神伝」シリーズ|須賀しのぶ
- 『帝国の娘』上下巻あらすじと感想文
- ストーリーと魅力を簡単に解説
- ポジティブなカリエ&クールなエド
- 成長したミューカレウス
- 身代わりの残酷な運命
- イレシオンの悲しい決意
- 『帝国の娘』結末
ネタバレあります。ご注意ください。
皇子の身代わりとなったカリエの運命は―?
須賀しのぶさんの小説『帝国の娘 上下』読書感想です。流血女神伝シリーズとして、本編が全22巻という巨編ファンタジーの一作目。
コバルト文庫で出版されていた『帝国の娘』が、角川文庫より新装版で出版されました。
とりあえず一作目だけ・・・と思ってたのだけど、これは面白すぎて続きが読みたくなりますね。
夢中で読んだよ。
コバルト文庫というと、どうしてもティーン向けの少女小説というイメージなんだけど・・・。
『帝国の娘』は、その枠を超えていました。主人公の少女の思いが胸に響き、大人も楽しめるストーリーです。きりの良いところで終わっているから『帝国の娘 上下』だけでも◎
『帝国の娘』あらすじ
大河ファンタジー
女神の僕たる神鳥リシク、その翼から生まれたテナリシカ大陸の西に位置する大帝国・ルトヴィア。辺鄙な山村で平凡に暮らしていた少女カリエは、ある日突然さらわれ、ある高貴な人の身体わりにされた。礼儀作法から武術まで、過酷な訓練の日々、冷徹な教育係エディアルド、宮廷をゆるがす謀略―カリエは持ち前の負けん気と行動力ですべてを乗り越えてゆく。ただひたすら、生きるために―。
『帝国の娘』はどんなストーリー?魅力を簡単に解説
『帝国の娘』は、ひとりの少女が病床についている皇子の身代わりとなり、皇位継承争いに巻きこまれる物語です。
皇子の身代わりとなるのが、主人公の少女・カリエ。彼女を皇子として教育するエディアルド。・・・このふたりが魅力的なキャラでした。
- カリエの気持ちに共感できる
- 皇位継承をめぐる、カリエを含めた4人の皇子たちの葛藤が面白い
- 誰が味方で誰がそうじゃないのか、ドキドキの展開に目が離せない
ひとりの平凡な少女が葛藤をくり返しながら、自ら考えて道を切り開いていく。カリエに共感できるんですよね。
彼女を応援したくなるんだ。
エディアルドや他の皇子たちの心情も描かれていて、それぞれに感情移入できるのも魅力です。
『帝国の娘』ネタバレ感想文|面白くて一気読み「流血女神伝」シリーズ
面白くて夢中で読みました。特に下巻は、ほぼ一気読みです。
カリエが皇子の身代わりとなり、カレーデ宮に入ったあたりから面白さ倍増。
ドロドロな部分もあってびっくりした。
先にカレーデ宮入りしていた皇子たちとの日常はほっこりする部分もあったけど、それでもライバルなんです。それぞれの思いが渦巻いて感情が揺れ動きました。
ポジティブなカリエ&クールなエディアルド|カリエの正体は?
主人公のカリエは明るくて前向きでポジティブな性格です。そんな彼女を見ていると、励まされるんですよね。
カリエ・フィーダは、ルトヴィア帝国の北方にあるヤンガ村で暮らしていた少女。アルゼウス皇子と外見が瓜二つだったため、病弱な皇子の身代わりとなるべく教育を受けることになります。
最初はイヤイヤだったけど・・・、
知らなかった多くのことを吸収し、わがものとするのは、楽しいことだ。たとえ身代わりでしかなくとも
慣れてきてからのカリエは、全てを楽しんでいたのが印象的。
少女が皇子(男)として振る舞わなければいけないんです。言葉づかいから立ちふるまいなどの礼儀作法や、武術まで。
大変だけど、自分の運命を受け入れて、さまざなことを吸収していく彼女が輝いていました。
ひとつ、気になるのはカリエの正体(出自)です。アルゼウス皇子と瓜二つの外見って、やっぱり血の繋がりがあるんでしょうね。
フリアナ(アルゼウス皇子の母)の隠された子どもではありませんでした。どうやらカリエは、ギウタの皇妃エジュレナ(フリアナの姉)の子どものようです。
どおりで似ているわけだ。・・・だからといって影武者にするのは、ひどいけど。
カリエの教育をするのはアルゼウスに仕える騎士の青年、エディアルド・ラウズ(エド)です。彼がまた素敵な人物でした。
初めはカリエに冷たく当たっていたけどカッコイイんです。剣の腕は確かでめちゃめちゃ強い。・・・こういうキャラ、なんだかんだで人気ですよね。
カレーデ宮の皇子たち|成長したミューカレウス
カリエがアルゼウス皇子として皇子宮(カレーデ宮)入りしてから、面白さが加速しました。
カレーデ宮というのは、皇子を集めて次期皇帝としての教育を与える場所。でもそれは建前で、皇位継承者を監視するという目的も兼ねています。
カデーレ宮に入ってしまえば、選帝が終わるまで宮殿を出ることができない。
なんか牢獄のようだ・・・と思いながらも、そこでの生活が意外と充実していてほっこりしました。
アルゼウス(カリエ)の他に3人の皇子がいます。次期皇帝をめぐるライバルですね。
- ドミトリアス(ドーン)・・・東のクアヒナ公国出身の第1皇子。厳格な性格
- イレシオン(シオン)・・・南のガゼッタ公国出身の第2皇子。周りを気遣う好青年
- ミューカレウス・ジ・アビーテ(ミュカ)・・・マルカーノス皇帝の息子である第4皇子。ワガママな少年
実は、次期皇帝の有力候補はアルゼウス(カリエ)とミューカレウスの2人だけだったりします。ドミトリアスとイレシオンの母親は公女でないから・・・という理由で。
わだかまりはあるものの、みんな温かみがある人物だった。
ドミトリアスは弟思いの優しい兄で、イレシオンはドミトリアスのことを尊敬していて穏やかなキャラでした。
一番やっかいだったミューカレウスは、カリエにライバル心を燃やすうちに成長していく姿が微笑ましかったです。
後半のミュカ、男前だったよ。
あんなに喧嘩が絶えなかったのに、カリエが身代わりと知った後も皇帝になることだけを考えろと言ったミューカレウス。
彼はカリエがアルゼウスの身代わりで少女だということを、いち早く見抜いた人物なんです。カレーデ宮ではミューカレウスの成長がめざましいですね。
カリエの葛藤と身代わりの残酷な運命
カレーデ宮入りしてから、カリエの心でさまざまな葛藤が描かれていました。
皇子たちは次期皇帝としての教育を受けるのだけど、ルトヴィア帝国民の暮らしや他国の情勢などは一切教えてくれず・・・。
でも一番大切なのは、国民の声だったりします。
私たちは、情報という、最も重要な力を封じられている。情報がなければ、私たちは何も出来ない
国民の生の声を聞いて、このままではいけないと気づいたカリエ。密かに想いを寄せているサルベーンに不満を爆発させた彼女が、なんというか皇子らしかったです。
そんな彼女にエディアルドは、
おまえはしょせん身代わりだ。おまえが民の声を聞いても、何にもならない。おまえは、変革をすることはできない。なさるのは、アルゼウス皇子だ
身代わりってなんなんだろう。彼女の熱い思いは本物なのに・・・。
切なくなりました。身代わりであるということは、彼女にとって危険をともなうことでもあるんです。
- アルゼウス皇子が元気になったら→影武者であるカリエは用済み
- アルゼウス皇子に万が一のことがあったら→このままカリエを皇子としておくには、バレたときのリスクが大きすぎる
どっちにしても、カリエは消される運命ということ。
これは、あまりにも酷すぎるのでは・・・。
すべてはドミトリアスのために・・・|イレシオンの悲しい決意
『帝国の娘』下巻の後半、カレーデ宮の皇子たちの運命を一転させる事件に悲しさを感じました。
カレーデ宮を抜け出したカリエとミューカレウスは刺客(フィエルス)に襲われたのです。ミュカは刺されて重体、カリエも深手を負いました。
黒幕はイレシオンです。
帝位への野心のために、二人の弟を殺し、いずれは兄皇子ドミトリアスも手にかけるつもりだった
↑これは第二皇子イレシオンの表向きの告白文だけど、本当の理由は兄ドミトリアスのためでした。
皇位継承をドミトリアスにするために。
ドミトリアスには自分が皇位を継承したいとの思いや実力があったけど、諦めようとしていたこと。イレシオンは兄こそが皇位にふさわしいと思っていたのです。
ドミトリアスやイレシオンの思いにも共感できるんだ。
カリエはドミトリアスか、エディアルドのどちらかが黒幕だと疑っていたんですよね。
ドミトリアスは皇位目当てで、エディアルドにはカリエ抹殺の命令が下っていた(本物のアルゼウス皇子が亡くなった)のだから・・・。
アルゼウス(カリエ)を含めた4人の皇子たち、それぞれの感情が渦巻いていて面白かったです。
この事件にはサルベーンも間接的に関わっているようで、彼の存在も気になったよ。
『帝国の娘』結末|カリエの運命は?
アルゼウス皇子がこの世を去り、カリエが選ぶ道は2つでした。
このまま抹殺されるか、逃げるか。
・・・まぁ、逃げるに決まってますよね。彼女は逃げる道を選びます。カリエを抹殺することに迷いを感じていたエディアルドとともに。
逃避行がひとりじゃなくて良かった。
ふたりいれば、これからの困難も乗り切れそうです。続きが気になるけど、とりあえずひと区切りの結末でした。