- 江國香織さんの小説『ホテル カクタス』あらすじと感想
- 「帽子」と「きゅうり」と 数字の「2」
- 安心感と憧れの無謀さ
- 不変なるもの
- 日常の楽しさと切なさ
少しだけネタバレあります
世の中に、不変なるものはない―。
江國香織さんの小説『ホテル カクタス』感想です。ゆるりと時間が流れているような心地よさ。江國さんの文章が好きです。
『ホテル カクタス』簡単なあらすじ
ひと味違った登場人物たちが織りなす日常。切なくも愛しい物語。
街はずれに古びたアパートがありました。「ホテル カクタス」です。そこには、ちょっと変わった住人が住んでいます。
『ホテル カクタス』感想
ちょっぴり切なくて、でも日常の幸せが感じられました。意外な登場人物たちが目をひきます。彼らの日常を読んでいると不思議と安らぐ。
切なさと愛しさがあとをひく物語でした。
「帽子」と「きゅうり」と 数字の「2」

変わった登場人物たち
『ホテル カクタス』には ちょっと変わった登場人物がいました。
「帽子」と「きゅうり」と 数字の「2」です。
彼らにはそれぞれ個性がありました。
- 「帽子」は 一匹狼。無職で、かつて行商で貯めたお金でほそぼそと食いつないでいる。ウィスキーを飲む。・・・うん、なんか「帽子」って感じがします。
- 「きゅうり」は ガソリンスタンドに務めていて、おおらかな性格。部屋にある運動器具で体を鍛えるのが趣味。飲むのはビール。・・・緑の瑞々しいきゅうりって元気なイメージがします。たぶん、きゅうりに性格をつけるとしたらこんな感じなんだろうな。
- 数字の「2」は 役場に務めていて優柔不断。綺麗好きで「割り切れないもの」はダメ。アルコールもダメ。飲むのは決まってグレープフルーツジュース。・・・うん、まさに数字の「2」。「割り切れないもの」がダメって(笑)
彼らが人のように思えて、ふとした瞬間に、あっ!人じゃないんだよねと思う。江國さんの、こういうお話は初めてです。人じゃないけど人のような。
江國さん自身が好きなんだろうなというモノが愛情いっぱいに描かれていました。
風景だったり、匂いだったり、身近にあるアレコレ・・・。身近にあるものがとても愛おしくなりました。
『ホテル カクタス』を読んだ後に帽子を見たら、この子はどんな性格なんだろうとか、きゅうり残さず食べようとか、そんなことばかり考えちゃいました。
いつでもある安心感と憧れの無謀さ

帽子と きゅうりと 数字の2。彼らの中で、ひだまりさん。が1番 感情移入できたのが数字の「2」でした。
お酒がダメな彼がグレープフルーツジュースばかり飲んでいるのには、ある理由があったんです。
大切なのは「いつでもある」ことの安心感。
それがなくなるという心配をせずにすむからグレープフルーツジュース。食べ物だけではなくて、ちょっと大げさに言うと帰る家や、働ける職場なども当てはまります。
もうひとつ共感したことがあります。
彼らが競馬に出掛けたときのこと。3人とも、みごとにスってしまいました。帰りのバス代をちゃんととりわけておいたのは 数字の「2」だけでした。
「帽子」と「きゅうり」は、あと先考えずに財布に入っていたお金をすべてつぎ込んでしまう。それを見た「2」が思った言葉が心にすとんと落ちてきました。
一体どうすればそんなふうに無謀になれるのか
少しの憧れ。私も彼と一緒で帰りのバス代はしっかり残しておく方です。競馬はやらないから想像なんですが。・・・だから無謀さには憧れます。
あと先考えずに、やりたいようにできる無謀さ。
不変なるもの
ゆったりと流れる時間の中で確実に物事は変化していきます。
「ホテル カクタス」の取り壊しが決定してしまう・・・。
住人たちは引越しを余儀なくされます。3人の反応は様々で彼ららしいな・・・と思いました。
頭を切り替えるのが早い「帽子」と「きゅうり」、諦めきれず反対運動をしようとする「2」。
帽子の言ったひとことが心に刺さりました。
「世の中に、不変なるものはないんだ」
世の中の道理です。切なくなりました。変わらぬものはない。形あるものはいつかは壊れ、身の回りの環境も時とともに変化します。
1日、1日を大切に過ごしたいですね。不変なるものはないというけれど、3人の友情は生きている限りずっと続いていくんだろうな。
日常の楽しさと切なさ
何気ない日常を綴った『ホテル カクタス』。私は江國さんの文章が好きなんだと実感しました。愛情のなかに もの悲しさがあるんですよね。
楽しいことや切ないこと、悩み・・・。そんな当たり前で貴重な時間が輝かしく思えました。面白おかしい彼らが微笑ましかったです。
3人のうち、だれに似ているだろう?と想像しながら読むのがオススメです。


