『ある男』ネタバレ感想文・あらすじ|愛した人が全くの別人だったら?|平野啓一郎
- 『ある男』あらすじと感想文 (辛口)
- 『ある男』のテーマが深かったこと
- 戸籍交換で手に入れた人生の続き
- 愛することに過去は必要?
ネタバレあります。ご注意ください。
愛したはずの夫は、まったくの別人だった―。
平野啓一郎さんの小説『ある男』感想文です。本屋大賞にノミネートされて気になりました。『マチネの終わりに』の著者・平野さんです。
ジャンルで言うと純文学になるのかな。ミステリー要素もあるけど、なかなか深い小説でした。
とても美しい文章を書かれる方だね。恋愛小説のような感じだったよ。
今日は辛口レビューもあります。後半は小説の魅力を書いていますので、良ければ最後まで読んでいただけると嬉しいです。
『ある男』あらすじ
愛することに過去は必要なのか
弁護士・城戸の元に奇妙な相談が舞い込んだ。かつての依頼者である里枝の亡くなった夫・大祐が全くの別人だったという。城戸は、「大祐」 が本当はどこの誰なのか調べ始めるが・・・。
『ある男』ネタバレ感想文|ハマれなかった理由を考察
面白い、面白い、そんなに面白かった?
レビューの評価、めちゃくちゃ高いですね。反対のことを書くのは緊張するけど、そこまでハマれませんでした。私は純文学が苦手なのかも・・・。
ハマれなかった理由を考えてみた。まずは辛口レビューだよ。
淡々とした印象|ハマれなかった理由①
全体的に淡々としている。
1番の理由はコレです。
漢字の使い方も文章も全てが美しい。ほれぼれしました。でも盛り上がらない。だから少し読んでは休んで・・・という感じで読み進めました。
時間かかっちゃった。この人誰だっけと登場人物がわからなくなる始末。
普段からミステリー小説を好んで読んでいるからかもしれません。醍醐味はそこじゃない!と言われそうです。(←確かにそこではありません。それは後ほど・・・)
『ある男』は、愛する夫が別人だったというミステリー要素があります。
戸籍交換ですね。でもミステリーに重点は置いてなくて、人物に重点を置いたお話になっていました。
戸籍交換と言えば思い出すのは、宮部みゆきさんの『火車』です。そちらの方がミステリー感は強い。
同じテーマを扱ってますが、平野さんの『ある男』はまた別物でした。
登場人物が好きになれなかった|ハマれなかった理由②
主人公の弁護士・城戸が好きになれなかった。
大祐になりすましていたXには好感が持てたけど、城戸のことがどうも好きになれませんでした。在日じゃなくてもよくね?・・・と、つっこみたくなります。
物語はほとんど城戸の視点で進んでいくんです。彼の家族のこと、里枝や美涼とのやりとり・・・。城戸の日常がたくさん描かれていました。
城戸の日常よりも戸籍交換のことが気になる。彼のことは良いから早く進んでくれ。
登場人物が好きになれないとこうなります。ところどころ飛ばし読みをしちゃいました。
タイトル『ある男』が指しているのは、大祐になりすましていたXのことですよね? でも城戸に思えたり、ホンモノの大祐にも思えたりしました。・・・このあたりは感心です。
読み手の目線次第で 「ある男」 がXにも、大祐にも城戸にもなるなんて。地味だけど良いタイトルだね。
伏線の回収なし|ハマれなかった理由③
伏線の回収、ないんですね・・・。
これもミステリー小説を読みなれた私だから感じることかもしれません。伏線の回収がないことです。
例えば、城戸の妻のLINEについて
最後に妻の浮気が発覚するのかなと勝手に期待しちゃいました。でも何もない!→結果、残るモヤモヤ感。
わざと回収しなかったのかな。検索していたら平野さんのこんなツイートを発見しました。
伏線が回収されてない、という批判がよくあるけど、ひょっとしてそれって別に伏線じゃなかったんじゃないか。現実には、何か起こりそうで何も起こらないことの方が多い。あんまり全部、律儀に伏線が回収されてると、オモチャっぽい感じになる。
— 平野啓一郎 (@hiranok) 2018年6月11日
確かにごもっともです。現実は起こりそうで起こらないことが多い。『ある男』は、よりリアルに近い感じが味わえる小説なのかもしれません。
ひょっとしたら城戸の妻の浮気は発覚せず、何事もなかったように夫婦でいるのかもしれないし、バレて離婚になったのかも。そもそも、あのLINEは妻の浮気を匂わして実は違っていたかもしれません。
想像におまかせという感じ?回収してほしかったな。モヤモヤが残る読後感になっちゃった。
長々と辛口レビューが続きました。ここからは、醍醐味であるテーマ 「愛した人が全くの別人だったら?」 について書きたいと思います。
『ある男』テーマが深い|愛した人が全くの別人だったとしても愛していられるのか
『ある男』の醍醐味・・・というか、テーマはこれです。
もしも愛した人が全くの別人だったら? それでも彼を愛していられるのか。
深いんですよね、文章は淡々としているのに。レビューの評価が高いのは、みんな何かしら思うところがあるからじゃないかと。
宮部さんの『火車』を読んだときには考えなかったことを考えました。
愛した人が全くの別人だったら?
- 里枝の夫 「大祐」 としての人生を歩んでいた X(原誠)
- 曾根崎の戸籍を持つホンモノの 「大祐」
過去を偽って 「大祐」 としての人生を歩んでいたXですが、妻の里枝は彼が事故死してからそのことに気づく。彼女が知っていた過去は全てXのものではありませんでした。
相当ショックだね。混乱しそう。そして彼の本当の過去を知りたいと願う。
でもそれで愛は消えないだろうな。人を好きになるのって、今現在のその人が好きなのであって過去はその次です。
知ってから改めて過去を愛してあげれたら良いですね。
自分を形づくっているものは「経験」と「過去」
自分の過去を偽り、全く別人としての人生を歩むのって、どんな気持ちなんだろう。
想像することしかできません。でも、そこまでして別人の人生を生きるXと大祐を見ていると切なくなりました。
自分を形づくっているものって、自分の過去や経験です。それがあるから今の自分があるんですよね。
戸籍交換するっていうことは、どうしても自分で自分を否定しているような気がしてしまって・・・。
別人として生きて他人は騙せるかもしれないけど、自分自身は騙せないよ。
Xの境遇を思えば理解できなくもないけど、大祐は何故に? 他人の人生を生きて幸せなはずがないです。
戸籍交換で手に入れた人生の続き
心に引っかかった城戸の言葉
もし今、この俺の人生を誰かに譲り渡したとするなら、その男は、俺よりもうまくこの続きを生きていくだろうか?
もし私の人生の続きを誰かが歩んだのなら、その誰かは私よりも器用に生きていそうだ。
私は不器用だから・・・。
大祐の人生の続きをXは上手く生きているような気がしました。たぶんホンモノの大祐が大祐として生きるよりも。
フクザツです。なんとも言えない気持ちになりました。
Xだったら、戸籍交換しなくても今のような幸せを手にしていたんじゃないかな。
そうだね。そして周りの人を傷つけずにすんだのかも・・・。
ジーンとしたラスト|愛することに過去は必要?
ラストはジーンとしました。里枝と悠斗くんが全てを知って、それでもXを愛する気持ちが伝わってきて・・・。
里枝のことばが心に刺さります。
一体、愛に過去は必要なのだろうか?
必ずしも必要でないとは言いきれないのがフクザツなところです。『ある男』を読んでなければ必要ないんじゃない? と言っちゃいそうだけど、読んだあとだから。
夫の今と偽りの過去を愛していた里枝のひと言は、グサッとくるものがあったよ。