『羊と鋼の森』あらすじ・ネタバレ感想文|ピアノ調律師と安らぎの森|宮下奈都
- 『羊と鋼の森』あらすじと感想文
- ピアノが奏でる静謐な森
- タイトルの意味
- 世界と調和された安息の地
- 繊細な音色と愛情
- 『羊と鋼の森』を読んで学んだこと
少しだけネタバレあります。
くすぐったいような懐かしさを感じる物語。
宮下奈都さんの小説『羊と鋼の森』感想です。2016年本屋大賞受賞作、ピアノ調律師のお話でした。
ピアノの調律師として、人としての成長を描いた『羊と鋼の森』。
少し盛り上がりに欠ける部分はあったけど、読み始めた時からその世界に引き込まれました。
穏やかな小説だったよ。
『羊と鋼の森』あらすじ
青年の成長物語
主人公・外村は ピアノの調律にみせられたことから調律師としての人生を歩み始める。彼の成長を温かに綴った物語。
『羊と鋼の森』ネタバレ感想文
宮下さんが奏でる文章が美しい。
面白いか面白くないか、そう聞かれたら困ってしまう・・・。正直に言うと面白いとは言い難いのです。でもその基準で決めるのは違うような気がする。
言葉で言い表すのは難しいけど、独特の雰囲気を感じる小説だった。
ピアノが奏でる静謐な森
『羊と鋼の森』が持つ雰囲気を一言で表すなら「静謐」です。
しんと静まり返った空間。厳かで濃密な時間を過ごす感覚に近い感じがしました。宮下さんの文章は美しく安らぎを感じますね。
冒頭の文章が素敵でした。
森の匂いがした。秋の、夜に近い時間の森。風が木々を揺らし、ざわざわと葉の鳴る音がする。夜になりかける時間の、森の匂い
イメージが浮かんでくる。独特の匂いも伝わってきそうだね。
この文章はある物を表しているのだけど、なんだか想像がつくでしょうか?
ピアノの音なんです。
調律師の板鳥がピアノの調律をしている時に、主人公が思い描いたイメージ。ため息がでるくらい美しい言葉ですね。
ピアノからこんなイメージを描けることに驚いた。
『羊と鋼の森』タイトルの意味
タイトル『羊と鋼の森』はピアノを表しています。
ピアノの弦を叩くハンマーに羊毛フェルトが使われているようで・・・(羊毛フェルトって、チクチクすると固まるやつ)。「鋼」というのはピアノの弦のことです。
羊と鋼が奏でるピアノと言ったところかな。
森のイメージもそこからきているのですね。ピアノの調律とあわせて「森の匂いがした」という記述がよく出てきます。
外村の故郷に対する懐かしさが感じられる。
世界と調和された安息の地
外村の故郷は、のどかで厳しい山の中でした。家の隣にあるのは森です。彼にとっては心休まる安らかな場所。
故郷の家には自分の居場所がなかった彼に、居場所を与えてくれたのが森でした。
森は懐かしいイメージ。・・・だから調律の時には、くすぐったいような懐かしさを感じるのかもしれません。
私も森の中を歩くと、なんだか許されていると感じる時があるよ。
作者の宮下さんは北海道に住んでいたようです。たびたび登場する自然の記述は、彼女の経験や感覚が投影されているのかな。
安らぎをピアノの音で感じられたら素敵だよね。
繊細な音色と愛情
ピアノと聞いて、調律師のことを思い浮かべる人はどれくらいいるだろう。
私にとってはあまり馴染みのない職業のひとつです。ピアノ関係の仕事と聞くと、真っ先に想像するのはピアニストやピアノの先生。
でもピアニストやピアノの先生が奏でる音色は、彼ら(彼女ら)だけで成り立っているわけではないと気づきました。
ピアニストと調律師が一体になって、初めてあの素敵な音色を奏でられる。
『羊と鋼の森』で描かれた調律師たちは、みんな良い人ばかりでした。それぞれが目指す形はちがうけれど共通の思いがあって・・・。
ピアノを愛する気持ちに共感したよ。
作者のピアノ愛がそのまま描かれているんですね。静謐さに安らぎながらも、ピアノへの情熱も感じました。
『羊と鋼の森』を読んで学んだこと
『羊と鋼の森』を読んでいると「あきらめない」という気持ちがいかに大切であるかを実感します。
目指すものに近道はなくて、今やっていることも無駄ではないということ。
コツコツと自分の信じた道を歩んでゆく主人公に勇気をもらえました。挫折はつきものだけど、新たな発見があって自分がひと回り成長していく。
『羊と鋼の森』は、ゆっくり時間をかけて読みたい一冊だった。