『セイレーンの懺悔』あらすじ・ネタバレ感想|マスコミと裁かれない罪の結末|中山七里
- 『セイレーンの懺悔』あらすじと感想文
- テーマ「マスコミ」について
- 女子高生誘拐事件
- 「知ること」と「伝えること」
- 裁けない罪
少しだけネタバレあります。
少女は誰に殺されたのか―?
中山七里さんの小説『セイレーンの懺悔』感想です。七里さんはタイトルのつけ方が抜群にうまいですね。タイトルにしっくりきました。
事件を刑事目線ではなくて報道目線で描いた物語。
どんでん返しあり。面白かった。
『セイレーンの懺悔』あらすじ
マスコミと裁かれない罪
葛飾区で発生した女子高生誘拐事件。不祥事により番組存続の危機にさらされた帝都テレビ「アフタヌーンJAPAN」の里谷太一と朝倉多香美は、起死回生のスクープを狙って奔走する。多香美が廃工場で目撃したのは、暴行を受け、無惨にも顔を焼かれた被害者・東良綾香の遺体だった。マスコミは、被害者の哀しみを娯楽にし、不幸を拡大再生産するセイレーンなのか。
『セイレーンの懺悔』ネタバレ感想文
『セイレーンの懺悔』は、スクープを狙って被害者や加害者を追いかけるマスコミが描かれています。・・・新鮮でした。
事件の犯人を追う警察とマスコミは目的が同じでも全然違うこと。
いくつもの言葉が心に刺さったよ。
テーマは「マスコミ」
どんでん返しの帝王・中山七里さん。彼の作品は全て読んだわけではないけど、そう言われているだけあってビックリする結末が多いです。
少女を本当に殺したのは誰なのか―?
帯に書かれていた文章に興味をひかれたんだ。どんでん返し、あった!
犯人や展開が読めてしまうのだけど、それだけではないんですよね、七里さんの本は。
『セイレーンの懺悔』で扱っているテーマは、マスコミの在り方です。
主人公の朝倉多香美を通して、胸に重しをつけられたような痛みを感じました。
女子高生誘拐事件 発生!!
「アフタヌーンJAPAN」里谷太一&朝倉多香美のペアの目的は、ただ一つ、スクープをとること。
女子高生誘拐事件が発生します。
取材に乗り出す2人は、まず宮藤刑事を尾行し始めました。とてもキレ者で、宮藤刑事が行くところに犯人あり!!・・・とスクープにありつける可能性が高くなるからです。
「アフタヌーンJAPAN」は未だかつて無いほどの大惨事を起こしてしまう・・・。報道では決してあってはならない大誤報です。
メディアの影響はとても大きい。
無条件に信じてしまう民衆も悪いけど、誤報された当事者たちの人生が狂ってしまう時があります。テレビを通して伝えることは、とてつもない責任感が伴うことなんですね。
そう言えば「アフタヌーンJAPAN」って、他の中山さんの著作にも出てきたな。
『切り裂きジャックの告白』。犯人を煽る報道をしてしまった帝都テレビは、それを挽回しようとスクープを狙っている・・・というワケです。
七里さんの小説は、こういうリンクも読んでいると楽しいですね。
「知ること」と「伝えること」
問われているのはマスコミの在り方です。
報道側の多香美と、刑事の宮藤のやり取りに心を奪われました。警察とマスコミは同じ犯人を追っているけれど目的は全然違う。厳しく言い放つ宮藤刑事の言葉にグサっときます。
七里さんは、彼女ら報道の人間をあるものに喩えていました。「セイレーン」です。
セイレーンって、怪物?
酷い言われようですね。でも被害者や加害者、その周辺の人たちに付きまとい煽るように報道する「アフタヌーンJAPAN」を見ていると頷いてしまう・・・。
傷つく多香美。言い返す言葉がなくて、自分の仕事に迷いが生まれ苦しむ姿には胸が痛みました。
真実の追求でも被害者の救済でもない。当事者たちの哀しみを娯楽にして届けているだけだ
米澤穂信さんの『王とサーカス』が頭に浮かびました。
ジャーナリストの万智を通して「知ること」と「伝えること」について深く追求している作品です。その中にも同じく「娯楽」という言葉がでてきました。
伝えることと、知ること。「報道の自由」「知る権利」なんてあるけれど、哀しみのどん底にいる人たちを救ってはあげられない。
伝える報道人はそれを娯楽にして届け、それを見る私は心が痛むけど時間が経つと何もなかったかのように普段の生活に溶けていく。
「娯楽」という言葉が、この本でまた心に刺さった。
裁けない罪と過酷な結末
犯人は無事に逮捕されたのだけと、もう一つの罪がありました。
裁判で裁けない悲しい罪です。
やり切れなくなりました。でも絶対いつかは罪の大きさに気づく時が来ます。そして重い十字架を背負って生きていかねばならない。
もしかしたら、裁かれるよりも過酷かも・・・。
ラストはまさに 「セイレーンの懺悔」
最後はとても良かったです。まさに「セイレーンの懺悔」。
多香美によって本来のマスコミの在り方を教わった気分になりました。
なかなか深い小説だったよ。