『夜果つるところ』ネタバレ感想文・あらすじ&読む順番『鈍色幻視行』に登場する小説|恩田陸
- 『夜果つるところ』あらすじと感想文、読む順番
- 「墜月荘」での日常
- ビィちゃんと3人の母親
- ビィちゃんの恋
- 『夜果つるところ』魅力|全てが曖昧で幻想的
ネタバレあります。ご注意ください。
おぞましくも、どこか美しい幻想譚
恩田陸さんの小説『夜果つるところ』読書感想です。『鈍色幻視行』に続き、こちらも恩田ワールドを楽しめた一冊でした。
遊廓「墜月荘」でくり広げられる、妖しくも美しい幻想的な物語。
私は出版順に(『鈍色幻視行』→『夜果つるところ』)読んだのだけど、『夜果つるところ』を先に読んでも楽しめるストーリーでした。一冊ずつ完結しているから、どちらかだけを読んでも◎
面白かったから両方ともおすすめだよ。
『夜果つるところ』あらすじ
美しくも惨烈な幻想譚
遊廓「墜月荘」で暮らす「私」には、三人の母がいる。日がな鳥籠を眺める産みの母・和江。身の回りのことを教えてくれる育ての母・莢子。無表情で帳場に立つ名義上の母・文子。ある時、「私」は館に出入りする男たちの宴会に迷い込む。着流しの笹野、背広を着た子爵、軍服の久我原。なぜか彼らに近しさを感じる「私」。だがそれは、夥しい血が流れる惨劇の始まりで・・・。
『夜果つるところ』と『鈍色幻視行』読む順番は?
『夜果つるところ』は、謎多き作家・飯合梓によって執筆された幻の一冊。
もちろん著者は恩田陸さんなんだけど、『鈍色幻視行』に登場する小説になっています。
本の中に登場する本を読めるなんて、面白いですよね。でも、どっちを先に読むか迷うところです。
ちなみに出版順で読むと、『夜果つるところ』の内容が少しだけわかった上で読むことになります。『鈍色幻視行』に『夜果つるところ』の内容が小出しに描かれているからです。
- 『鈍色幻視行』を先に読む場合→『夜果つるところ』にも興味がわいて、自然と読みたくなる
- 『夜果つるところ』を先に読む場合→先入観なしで読むことができる
先入観なしで『夜果つるところ』を読んでも面白いかもと、少しだけ思った。
『夜果つるところ』ネタバレ感想文|遊廓「墜月荘」惹きつけられるストーリー
『夜果つるところ』は、遊廓「墜月荘」で暮らす三人の母をもつ子どもが主人公の物語です。
遊廓という特殊なところでくり広げられるストーリーが面白く、謎に満ちていて楽しめました。ちなみに三人の母というのは、産みの母、育ての母、名義上の母です。
このあたりの環境や、遊廓「墜月荘」がどうなっていくのかは、『鈍色幻視行』を先に読んでいると察しがつくよ。
謎多き作家・飯合梓によって執筆された、幻の一冊『夜果つるところ』。『鈍色幻視行』を読んだときから楽しみにしていました。期待を裏切らず面白かったです。
「墜月荘」での日常|おぞましくも、どこか美しい幻想譚
遊廓が舞台の小説は初めて読んだかも。遊廓と聞いて、まず思い浮かべたのは『鬼滅の刃』遊郭編です。
なんとなく、きらびやかなイメージ。
恩田さんが描く遊廓「墜月荘」は世間から隔離され、閉じた空間でした。ちょっぴりミステリアスで妖しく、でも美しくも感じる幻想的な空間です。
主人公・ビィちゃんの回想視点だったから、そう感じたのかもしれません。「墜月荘」ストーリーは謎に満ちていました。
幼いビィちゃんは隔離されて育てられています。だから「墜月荘」で起こる出来事も輪郭がはっきりせず、謎に満ちているというか。「墜月荘」は現実から切り離された空間という雰囲気を味わえました。
世にも醜悪で世にも美しい、おぞましくも惹きつけられる墜月荘は私の世界のすべてであったし、それゆえにあの場所を私は愛していた
「墜月荘」で起きる様々な出来事で人の醜さや堕落していく様を見てきたビィちゃん。そのビィちゃんも謎に満ちた子どもだったけど、本を読み終わった今、私も全てが愛おしくなりました。
最後は「墜月荘」が燃えてなくなっちゃうから、なおさら愛おしくなるのかも。
ビィちゃんと三人の母親
「墜月荘」で暮らすビィちゃんは特殊な環境にありました。三人の母親がいるっていう時点で興味がわきますよね。
一番ビィちゃんと接していたのは育ての母・莢子。勉強も教えていたし、ビィちゃんも懐いていました。ビィちゃんという愛称をつけたのも彼女です。
「墜月荘」が焼け落ちるとき、夜の終わる場所で落ち合いましょう・・・と言って別れたシーンが印象的だった。
心を病んでいた産みの母・和江もインパクトが強かったです。ビィちゃんが和江に抱く印象と、和江がビィちゃんに抱く印象。血の繋がった親子なのに・・・と悲しくなりました。
様々な事情が重なって「墜月荘」で育てられているビィちゃんが不憫なんですよね。
どうして私だけがこんな生活なのか、どうして他の子供のように学校に行ったり、同年代の子供たちと遊んだりしないのか、どうしてこんなところにいるのか
学校にも行かず、人ともあまり接することなく「墜月荘」でひっそりと育てられている子ども。しかも性別まで偽られています。
ビィちゃんの性別は、先に『鈍色幻視行』を読んでいると、わかった上で読むことができるよ。
なぜビィちゃんがこんな生活を強いられているのか謎のまま読んでいたけど、最後に明かされて納得でした。ビィちゃんは切り札・・・まぁ、周りの大人の事情ってやつですね。
ビィちゃんの恋|カーキ色の久我原に抱く複雑な気持ち
特殊な環境の中で暮らすビィちゃんが、お客さんに興味を抱くシーンが心に残っています。
蜘蛛の巣の着物をまとい、能を舞う若い男性。久我原という名前の彼はカーキ色(軍人)でした。
隠れてそっと彼が舞うところを見つめるビィちゃん。・・・これは恋かな?
ビィちゃん自身、恋なのか違うのかわかってないところが良いんだ。
久我原に抱くビィちゃんの気持ちは複雑なものがありました。最初は恋かなと温かい目線で読んでいたのだけど。最後は苦みが残りますね。
灯油をまいたのか、まいてないのか、曖昧のままで少しホッとした。
『夜果つるところ』ここに惹かれる!全てが曖昧で幻想的
『夜果つるところ』、全てが曖昧で幻想的に描かれているのが良かったです。
ビィちゃん視点だからかな?幼い頃の記憶は曖昧なところが多くて、自分の気持ちもわからないまま。そういう雰囲気を持ち合わせた小説でした。
ビィちゃんは死者の魂を垣間見ることができるんだよね。だから「墜月荘」は生者と死者が溶けあっている場所という感じがした。
最後にビィちゃんの出自が明かされ、「墜月荘」は燃え落ちます。ビィちゃんと一緒に、ひとときの夢を見ていた心地になりました。