『鈍色幻視行』ネタバレ感想文・あらすじ|謎めいた小説『夜果つるところ』恩田陸
- 『鈍色幻視行』あらすじと感想文
- 呪われた小説!?『夜果つるところ』
- 引き込まれる梢と雅春の心理描写
- 印象に残った真鍋詩織のインタビュー
- ラストの推理シーン
ネタバレあります。ご注意ください。
謎と秘密を乗せて、今、長い航海が始まる。
恩田陸さんの小説『鈍色幻視行』読書感想です。一冊の本をめぐるミステリー小説。恩田さんの著作『三月は深き紅の淵を』や『黒と茶の幻想』を連想しますね。
『鈍色幻視行』は呪われた(!?)小説『夜果つるところ』と、その著者の謎を追求していくストーリーです。
物語の中に一冊の小説『夜果つるところ』が登場。恩田さんの描き方が巧妙で、その小説をも読みたくなる魅力がありました。
『夜果つるところ』も実際に出版されるんだ。
『鈍色幻視行』の翌月に出版されるんです。・・・これは嬉しい!
『鈍色幻視行』あらすじ
一冊の本をめぐるミステリ
撮影中の事故により三たび映像化が頓挫した“呪われた”小説『夜果つるところ』と、その著者・飯合梓の謎を追う小説家の蕗谷梢は、関係者が一堂に会するクルーズ旅行に夫・雅春とともに参加した。船上では、映画監督の角替、映画プロデューサーの進藤、編集者の島崎、漫画家ユニット・真鍋姉妹など、小説にひとかたならぬ思いを持つ面々が、梢の取材に応えて語り出す。
『鈍色幻視行』ネタバレ感想文|魅惑の小説『夜果つるところ』と関係者たち
『鈍色幻視行』は呪われた小説『夜果つるところ』とその著者の謎について、登場人物たちが深掘りしていく物語です。
舞台は豪華客船の中。映画監督やプロデューサー、漫画家の姉妹など『夜果つるところ』に魅了された人々が登場します。
登場人物それぞれ『夜果つるところ』に抱く思いが深くて面白い。
みんな、並々ならぬ思いを抱えていて興味深かった。
読み手によって様々な解釈があって・・・。同じ一冊の本について話してるのだけど、その本から受ける影響って、ひとりひとり違うんですよね。
それぞれの思いや解釈、謎めいた著者、心理描写も相まって、スリルあるドキドキ感を味わえました。
一冊の本への愛情(執着?)が深い。でもここまで物語を愛せる気持ちには共感できるよ。
恩田さんの描き方も絶品です。『夜果つるところ』の内容が小出しに描かれているから、その小説が気になってしまうんですよね。
呪われた小説!?『夜果つるところ』はどんな物語か
『鈍色幻視行』で語られる『夜果つるところ』は、いわくつきの小説でした。何度か映像化する話があったのだけど・・・、
『夜果つるところ』は映像化する度に死者が出ている
映像化すると死者が出るなんて、ちょっと怖いですね。何かに呪われているかのようなホラー感を感じてヒヤリとします。
でも、惹かれるのも事実なんだ。
そんないわくつきの小説『夜果つるところ』は、どんな物語なのでしょうか。気になりますよね?
『夜果つるところ』は、三人の母親を持つ子供の物語です。
遊廓という特殊な世界で生活している母たち(産みの母親と育ての母親、名義上の母親)。産みの母親は精神を病んでいて、育ての母親は信頼できず、名義上の母親も世間体の振る舞いしかしないという・・・。
なんか色々ありそうな設定。恩田さんの小説だから、きっとアクが強い母たちなんだろうな。
主人公は、そんな三人の母を持つ男の子。主人公のことについても小出しに描かれていて、なかなか面白そうなんですよね。・・・これは楽しみです。
『鈍色幻視行』引き込まれる梢と雅春の心理描写
『鈍色幻視行』主人公は小説家の蕗谷梢。夫の雅春と一緒に、『夜果つるところ』の関係者が集うクルーズ旅行に参加します。
梢の視点だけじゃなく、雅春の視点でも描かれているのが良かった。
この夫婦も『夜果つるところ』に並々ならぬ思いがあったのですよね。恩田さんが描く心理描写が面白くて、自然に物語に没頭できました。
あることが心に引っかかっていた梢。
雅春の前妻・笹倉いずみが『夜果つるところ』の脚本を書いていたこと。それをなぜか雅春は教えてくれなかった。
梢の心理描写に「何かあるのかな?」と続きが気になりました。笹倉いずみは自ら命を絶ち、『夜果つるところ』はお蔵入りとなります。
こういうところ、ミステリー感があって最後まで読まずにはいられなかった。
前妻のことを黙っていた雅春ですが、彼もまた複雑な思いが渦巻いていました。
印象的だったのは、雅春にとって、このクルーズ旅行は前妻と向き合う良い機会になっていたことです。
俺、すごーく傷ついてた。深く深く傷ついてたってことがよーく分かったんだ、たった今な。
船の図書室で梢と向き合い、インタビューを受けた後の彼は晴々としていました。彼にとってこの旅行は、必要不可欠な喪の作業でもあったのかもしれませんね。
真鍋詩織のインタビュー|『鈍色幻視行』印象に残ったシーン
物語の後半で目を引いたのは、梢がひとりひとりにインタビューしていくところでした。視点は梢だけど、インタビューされる側の言葉だけが語られています。
関係者の言葉だけで、それぞれの心情が描かれているのが興味深かったよ。
特に気になったのは、真鍋詩織のインタビューでした。詩織が思うところの『夜果つるところ』を読んでいると、ますます興味がわいてきます。
「母恋し、父不在」の小説。確かにそう。でもね、あたしが『夜果つるところ』に感じるのは、「叶わぬ愛」を描いた小説だということ。あの中には、祝福された恋愛はひとつも出てこない
例えば『夜果つるところ』には、こんな登場人物が出てくるようです。
ドロドロしてそうですよね。キャラもアクが強そう・・・。
『鈍色幻視行』の登場人物・真鍋姉妹も、けっこうアクが強いキャラでした。姉妹で漫画家。きっと仲は良いのだろうけど、何かと注目を浴びてしまうキャラです。
恩田さんの、こういう濃いキャラが好きなんだ。
『鈍色幻視行』ラスト|探偵役は梢&飯合梓の深まる謎
いわくつきの小説『夜果つるところ』の著者・飯合梓について、梢が推理を述べるシーンがラストに描かれています。
編集者・緋沼が、実は飯合梓だった可能性について。
梢の推理は的を得ていて面白かったよ。今まで謎だった飯合梓の像がくっきりと浮かぶようだった。
実はこのラストを読んでいたら、恩田さんの著作『木曜組曲』を連想しました。
探偵役であるかのような梢が、『木曜組曲』の登場人物・絵里子と重なって見えた。
『木曜組曲』のラストに、絵里子が推理を働かせるシーンがあって・・・。そのシーン、好きなんですよね。
『鈍色幻視行』も『木曜組曲』と同じく、真相はわからないまま終わるんだけど、それが良いんだ。
結局、謎は謎のままなんだけど、想像することの楽しさがこれからも続くのって素敵ですよね。