『パレートの誤算』ネタバレ感想・あらすじと結末|ケースワーカー殺人事件|柚月裕子

- 『パレートの誤算』あらすじと感想
- ケースワーカーと事件
- 不正受給の疑惑と貧困ビジネス
- 若林刑事の信念
- タイトルの意味|「働き蟻の法則」 と 「パレートの法則」
- 犯人について
ネタバレあります。ご注意ください。
ケースワーカーが殺された!?
柚月裕子さんの小説『パレートの誤算』感想です。柚月さんの本は面白い。脇役だけど若林刑事が好きになりました。

こういう刑事さん、いいな。
WOWOWでドラマ化です。ケースワーカーを描いた物語で なかなか深みがありました。
『パレートの誤算』あらすじ
テーマは生活保護
念願だった市役所に就職した牧野聡美は、生活保護受給者を担当する課に配属された。ケースワーカーの仕事に不安を抱く聡美。そんな中、先輩のケースワーカー・山川が何者かに殺害された。聡美は小野寺とともに山川の仕事を引き継いだが、次々に疑惑が浮上し・・・。
『パレートの誤算』ネタバレ感想
面白かったです。テーマは生活保護。ケースワーカーを描いた視点が新鮮でした。不正受給や貧困ビジネス・・・。いつでもどこでも不正は存在するんですよね。

市役所の職員やケースワーカーも大変だ。
それにしても 「パレートの法則」 って初めて知りました。それをふくめた『パレートの誤算』。タイトルの意味が深くて感嘆します。
ケースワーカーと殺された山川
『パレートの誤算』は ケースワーカーにスポットを当てたお話でした。主人公・聡美は市役所で働く公務員。ケースワーカーの業務を任されます。
ここで描かれている受給者とは 主に生活保護を申請して、それで日々の生活をしている人々です。

体を壊したり、病気になったりで働くことが困難な人がたくさん描かれているよ。

ケースワーカーって大変な仕事だね。
聡美と同僚の小野寺がケースワーカーを任されてから少しして、先輩の山川が殺される事件が起こります。現場は受給者が多く住んでいるマンションの一室。
聡美と小野寺は 山川が担当していた地区を引き継ぐことになります。やがて事件は思わぬ展開に・・・。
不正受給の疑惑|貧困ビジネス
聡美と小野寺は、山川が担当していた受給者に疑惑を抱きます。
マンションに住んでいた金田が姿を消し、彼の周りにはガラの悪い連中の姿が目撃されていました。・・・道和会のヤクザです。
道和会のシマに住んでいる受給者のほとんどが、菅野病院の受診者じゃないですか
浮かび上がる不正受給の疑惑。
道和会のヤクザが菅野病院とつるんで、本当は生活保護を支給される資格のない人を不正受給させているのではないか。・・・いわゆる貧困ビジネス (生活保護ビジネス) ですね。
道和会との癒着。それはそのまま山川への疑惑へと変わります。彼は高級腕時計をいくつも所持していました。しかもヤクザが出入りしていることを知っていて報告しなかったフシがある。
- 山川は時計の購入費を、どこから捻出していたのか
- 道和会とつるみ、貧困ビジネスに加担していたのか
- 道和会が受給者から搾取した金の一部を、受け取っていたのか

山川、怪しいじゃんか。

それにしても、不正受給って本当にあるんだよね。
生活保護で支給されるお金は国民の税金から出ているわけで。・・・それが不正受給って、なんだかなぁと思います。
生活保護は本当に生活が困難な人のためにあるもの。不正受給が後を立たなければ、審査も厳しくなるだろうし、必要な人に行き渡らなくなったら どうしようと考えてしまいました。
刑事・若林の信念
若林刑事がステキでした。柚月さんが描く登場人物が好きです。
記憶に新しいのは佐方貞人。佐方貞人シリーズの主人公でヤメ検の弁護士。そして本作『パレートの誤算』では、脇役だけど若林刑事。

この2人には信念みたいのを感じる。そしてそれがかっこ良い。
決して自分の保身のために行動を躊躇わず、正しいと思ったことを成す。そういう信念が伺えました。

『パレートの誤算』での視点は あくまでもケースワーカーの聡美です。なので事件解決 (されるけど) よりも、ケースワーカーとしての視点で描かれています。
聡美の目に写った若林刑事、山川先輩、小野寺、生活困難者たち・・・。

ケースワーカーの目線って新鮮。ミステリー小説って、刑事や検事、弁護士といった目線で描かれるのが多いから。
ただ、刑事目線で小説を読みなれている私にとっては、真相がなかなか見えてこないのが少しもどかしかったです。
若林刑事目線での物語も読んでみたくなりました。
『パレートの誤算』タイトルの意味を解説
タイトル『パレートの誤算』は、イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが発見した 「パレートの法則」 からきています。でも 柚月さんは、それを 「誤算」 としている。
注目すべきなのは、「誤算」 という部分です。
ここに作者の思いが描かれていました。・・・その前に、「パレートの法則」 というのが何なのかも書いておきます。
タイトルの意味だけ知りたい方は以下、読み飛ばして、”結論『パレートの誤算』タイトルの意味” へ。
「パレートの法則」|物事の2割が全体の8割を担っている!?
例えば、マーケティングでは 2割の商品が8割の売り上げを作るというものです。

これには少し頷ける。ブログを書いてても、実際に収益を生みだしてるのは1部の記事だけだから。
では、その2割を取り除いたらどうなるか。8割りの中からまた全体を担う2割が生みだされるそうです。
「働き蟻の法則」|社会は働く人と働かない人がいるから成り立っている!?
「パレートの法則」 に 似ているもので、ある大学の教授が蟻を使って実験した 「働き蟻の法則」 というものがあります。以下は 本書で書かれていたものを要約しています。
- 蟻は一定数の働く蟻と働かない蟻に分かれる
- 働かない蟻を取り除き、働く蟻だけにしてみた
- その中の2割程度は働かなくなるという結果が出た
働かない蟻を取り除いたら、すべての蟻が働くと思うけど違うんです。その中でも働かない蟻がでてくる。

興味深い結果だね。
社会は 働く人と働かない人がいるから成り立っているのかもしれません。ずっと働きっぱなしだと疲れるから役割交代で。
結論『パレートの誤算』タイトルの意味
『パレートの誤算』タイトルに込められた意味は、生活困難者や社会的弱者の存在意義を匂わせています。
「パレートの法則」 は、物事の2割が全体の8割を担っているという考えに基づいたものです。そう聞くと、2割で社会が成り立つのなら、8割りってなくても良くね?と考えてしまう。
でもこの考えは危険です。それを含めて タイトルを 「パレートの誤算」 としているのですね。
働かない蟻にも、パレートの法則の二割以外の部分にも、存在意義はある。パレートも自分が唱えた法則で、それらが無価値だとは述べていない。もし、そのように解釈している人がいるとしたら、それはパレートにとって誤算といえるだろう
たとえ今 「パレートの法則」 でいうところの全体を担う2割になれなくても、将来はその2割の中にいるかもしれない。社会的弱者でも一生懸命生きている。
『パレートの誤算』で描かれている人たちを見ていると、心の叫びが聞こえてくるようでした。
犯人はだれ? (結末ネタバレあり)
不正受給に手を染めていたのは、道和会のヤクザ、菅野病院の院長ともう1人。聡美の上司の猪又課長でした。

この辺、想像ついた。
薄々、猪又課長が怪しいと感じていました。・・・ので想像どおり。
『パレートの誤算』は ミステリー小説だけど、犯人探しというよりもケースワーカーや不正受給の方に重きを置いていました。
ミステリー好きにとっては少し物足りないかも。でも面白かったので おすすめです。


