『完全無罪』ネタバレ感想文・あらすじと結末|警察の正義が冤罪に!?大門剛明
- 『完全無罪』あらすじと感想文
- 警察の正義が招いた冤罪
- 無実と無罪は違う
- 真犯人と衝撃の結末
ネタバレあります。ご注意ください
完全無罪って難しいね
大門剛明さんの小説『完全無罪』読書感想です。冤罪を扱ったミステリー小説。読むのをやめられないくらい面白かったです。
最後まで平山が無罪なのかわからないところ
冤罪をめぐるミステリーなんだけど、ほんとうに無罪?・・・と、ドキドキだったよ。
警察の正義や、無実と無罪についても描かれていて思うところがありました。面白いながらも深みがある内容です。
『完全無罪』あらすじ
「冤罪」ミステリー
21年前の少女誘拐殺人事件の冤罪再審裁判に抜擢された期待の女性弁護士・松岡千紗。しかし、千紗はその事件で監禁された少女の一人だった。間一髪で自分を殺めたかも知れない容疑者に千紗は敢然と対峙する。罪を作り出す罪「冤罪」法廷が迎える衝撃の結末とは・・・。
『完全無罪』ネタバレ感想文|冤罪は人生を崩壊させる
冤罪を扱ったミステリー小説『完全無罪』。刑が確定している平山聡史が冤罪では・・・として、弁護士・松岡千紗が奮闘します。
ほんとうに、平山は冤罪なのか?
最後まで白なのか黒なのかわからず、グレーのまま話が進んでいくのが面白かったです。冤罪として無罪判決がでるのだけど、本当に?・・・と疑いの眼差しで読んでました。
最後までドキドキ感が続いて、読み応えがあった。
平山は白か黒かというのも気になりつつ、他にも心にグサッときたところが2つあるんです。それは、やるせない気持ちになったところなんだけど・・・。
冤罪を背負わされたことで人生崩壊。ほんとうに疑わしきは罰せずだと思った。
「10人の真犯人を逃すとも、1人の無辜を罰するなかれ」という法格言がありますね。冤罪を扱った小説を読むと、この言葉が心に刺さります。
警察の正義が招いた冤罪|証拠捏造と違法な取り調べ
やるせなく感じたところのひとつは、警察の正義が招いた冤罪です。
警察の正義とは犯人を逮捕すること
よろしくお願いします・・・と、この正義には頭を下げたい気持ちになります。でも『完全無罪』で描かれている警察の正義は、かなり行き過ぎていました。
警察による証拠捏造と違法な取り調べ
当時、平山が有罪となった綾川事件では、車内に残った毛髪と、取り調べ中の自白が決め手になりました。車内に残った毛髪(動かぬ証拠とされていたもの)は、警察による捏造だったのです。
証拠もないのに、平山が犯人だと確信した刑事たちの暴走。間違った正義の貫き方だ。
正義を貫くことは決して悪くはないのだけど、ここでの正義は悪のように感じました。結果、平山に無実の罪(冤罪)を背負わせてしまうのです。・・・疑わしきは罰せずですね。
当時の捜査員・有森は堅物刑事という印象。後半は彼の視点でも描かれていて、好感が持てたけど。
千紗の活躍により、動かぬ証拠がひっくり返りました。綾川事件で平山は冤罪だったということがわかり、無罪が確定します。
完全無罪って難しい|無実と無罪は違う
無罪が確定した平山だけど・・・。
「完全無罪って難しいね」
これが『完全無罪』を読んでいて、やるせなく感じたところの、もうひとつです。無実と無罪は違うということ。
一度でも警察に疑われてしまえば、真犯人が見つかるまで、その人はずっと危険人物のまま
ほんとうに無実だったとしても、それは本人や事件の当事者にしかわからないことです。無罪判決でも、真犯人が見つからない限り、その人はずっとグレー(黒じゃないかもしれないけど、白ともいえない)。
・・・そう判断する周りの人は多いですね。そういう私も平山のことはグレーだと思いながら読んでいました。最後まで。
真犯人が見つかれば無実だと周りも理解できるんだけどね。
冤罪は、白(無実)なのにグレー(危険人物)のレッテルを貼られてしまう不条理なことです。しかも自分や自分の周りの人々の人生をも狂わせてしまうもの。
ほんとうに「1人の無辜を罰するなかれ」という言葉が心に刺さる。
女性弁護士・松岡千紗の過去|彼女も被害者だった!
主人公の女性弁護士・松岡千紗が魅力あふれるキャラでした。読み進めると彼女の過去が明かされていきます。
「二十一年前、私は誘拐されたんです」
実は千紗も被害者。平山の刑が確定した綾川事件を含め、他にも二件、誘拐事件が起こっていました。そのうちの一件が千紗が被害にあったものです。
千紗は平山の冤罪を証明する傍ら、自ら真犯人を見つけ出したいという思いを抱いていたのですね。
平山はほんとうに犯人じゃないのか。真犯人は別にいるのか。
疑念にかられる千紗の心の葛藤にも感情移入できました。平山がまた怪しげに描かれているものだから、最後までどっちなの!?・・・と、読むのをやめられなかったです。
真犯人は誰なんだろう。
『完全無罪』衝撃の結末|真犯人はだれ?
『完全無罪』、結末は衝撃的なものでした。平山は、やはり冤罪だったのです。正真正銘の無実でした。
・・・ということは、真犯人は別にいたということになりますね。
これは全くの予想外でした。でも真犯人よりも、もっと衝撃を受けたことがあります。衝撃というか、悲しくなったことなのだけど。
冤罪を証明できた平山が新たな罪を犯したこと。妹を自殺に追いやった刑事たちに復讐した。
綾川事件で平山が逮捕されたとき、刑事たちが嘘をついたことで彼の妹は帰らぬひとに・・・。
「佳澄に対して私の無実は永遠に明らかにならない。だったら刺し違えてもこいつらに復讐してやる。その思いだけでずっと生きてきました」
平山の人生を思うと切なさが増します。無実の罪で服役、妹が亡くなり、再審請求で自由を得たのに、それを犠牲にして復讐・・・。
すべては冤罪が招いたこと。悲しくなったよ。
やるせない気持ちになったけど、読後感はそんなに重いものではなかったです。読み応えたっぷりでした。
冤罪を扱った小説では、太田愛さんの『幻夏』もおすすめです。切なくて泣きました。