- 小説『カエルの小指 a murder of crows』あらすじと感想・レビュー
- 謎の中学生・キョウとド派手なペテン計画
- 5本の指とあの男の話
- 印象に残った言葉
- 蛙化現象
- 【考察】タイトルの意味の解説
- 結末について
少しだけネタバレあります。ご注意ください。
久々に、派手なペテン仕掛けるぞ
道尾秀介さんの小説『カエルの小指 a murder of crows』感想です。『カラスの親指 by rule of CROW’s thumb』の続編。今回も二重、三重とペテンが仕掛けられていました!
『カエルの小指』だけでも楽しめますが、やはり『カラスの親指』を読んでから本作を読んでほしい。その方が何倍も深みが味わえます。

もくじ
小説『カエルの小指 a murder of crows』あらすじ・評価
『カラスの親指』の続編!
本の評価
おすすめ
かんどう
いがいさ
サクサク
【あらすじ】
詐欺師から足を洗い、実演販売士として真っ当に生きる道を選んだ武沢竹夫。しかし謎めいた中学生・キョウが「とんでもない依頼」とともに現れたことで彼の生活は一変する。ふたたびペテンの世界に戻ることを決意した竹夫。まひろ、やひろ、貫太郎らと「超人気テレビ番組」を巻き込んだド派手な大仕掛けを計画するが・・・。
小説『カエルの小指 a murder of crows』感想・レビュー、解説
前作『カラスの親指』から10年後の物語。やひろと貫太郎の息子がテツ。テツという名前に ドキッとしました。
テツ (鉄平) は今どきの、でもしっかりカラスの血を受け継いでる子。『カエルの小指』でのペテンに大活躍です。
面白くて止まらなくなりました。
謎の中学生・キョウとド派手なペテン計画

『カエルの小指 a murder of crows』は 謎の中学生・キョウを中心に進んでいきます。
- 武沢竹夫 (タケさん、ミスターT) ・・・元プロの詐欺師。今は実演販売士として生活している
- キョウ・・・謎めいた中学2年生の女の子
- 寺田未知子・・・キョウの母
- まひろ・・・元プロのスリ師。31歳
- やひろ・・・まひろの姉。38歳
- 貫太郎・・・やひろの夫
- 鉄平 (テツ) ・・・貫太郎とやひろの子ども。小学6年生
主人公はタケさん (武沢竹夫)。詐欺師から足を洗い、実演販売士として働く男です。ひょんなことから謎めいた中学生・キョウと出会い、実演販売を教えることになりました。
『発掘! 天才キッズ』というテレビ番組で優勝して賞金を得るために。
キョウはお金が必要だったのです。母が騙されたプロの結婚詐欺師・ナガミネを見つけるための資金でした。
やがて キョウ、タケさん、やひろ、まひろ、貫太郎、テツは 超人気テレビ番組を巻き込み派手なペテンを仕掛けることになります。
久々に、派手なペテン仕掛けるぞ
『発掘! 天才キッズ』司会者・瀬谷ワタルが弁護士とともに詐欺師を追いつめる番組『撲滅ウォリアーズ』を巻き込んだペテン。
二重、三重と仕掛けられ、息つく暇もないくらい面白かったです。『カラスの親指』で味わったドキドキ感が、この物語でも味わえました。
5本の指とあの男の話
タケさんはキョウに出会ったとき、彼女になぞなぞを出します。それは15年前 キョウの母・未知子から出されたものでした。
五人家族の中で、ほかの全員と円満な関係もつくれれば悪い関係もつくれてしまうのは誰だ?
『カラスの親指』を読んでいた私は 思わず自分の5本の手の指を見ました。5人家族、ちょうど手の指は5本です。
正解は、父親です。
5本の指のうち、どの指とも ○ も ✕ もつくれるのは親指 (お父さん指) だけ。・・・だから父親ということでした。
前作『カラスの親指』は 突き詰めれば家族のお話。『カエルの小指』もそうでした。カエル (父親) と小指 (オタマジャクシ) のお話。それについては後ほど。(タイトルの意味を考察したところで詳しく書いています)
気になったこと
『カエルの小指』には 「あの男」 という記述が 何回かでてきます。1回も名前が書かれていない 「あの男」。
詐欺師なんて、人間の屑です。
そう言って人生の幕を閉じた私の大好きな登場人物 「カラスの親指」 が指す人。
ペテンを仕掛ける前に、みんなで墓参りにいきました。「輝」 という文字が書かれていたお墓に。そのシーンを読むと『カラスの親指』の彼を思い出してジーンとしました。
「あの男」 はほんとうにプロの詐欺師 (カラス) だった。
印象に残った言葉

キョウの言葉が印象に残りました。
人を欺したのなら、自分も欺されるべきです。誰かに与えた結果は自分にも返ってくるべきです。他人の人生を壊したなら、自分の人生も同じように壊されるべきです
けっこう厳しい言葉ですね。自分が他人にした行いは 自分にも返ってくるべき・・・という。世の中は不平等。公平ではないんだということは感じています。
小林由香さんの『ジャッジメント』を連想しました。復讐法が認められた世界が描かれた小説です。

復讐をしても憎しみは消えることなく、心は安らがない。とても重くて苦しい物語でした。
自分に降りかかる善悪は すべて自分の行動によるものとする因果応報という考え方。・・・あながち間違いではないのかもと思う時もあります。
日頃から善い行いを心掛けよう・・・。
蛙化現象とまひろ
まひろは蛙化現象に陥っていました。
蛙化 (かえるか) 現象。思いを寄せていた相手が振り向いてくれたとたんに冷めてしまう現象。
由来は グリム童話『カエルの王子様』からきているようです。
『カエルの王子様』は 最後にカエルが王子様になりますが、蛙化現象はその反対。王子様がカエルに見えてしまう。
こんな現象もあるのですね。熱しやすく冷めやすいという言葉も似ているのかな。
まひろは かつてスリで生計をたてていたから、その影響で蛙化現象に陥ってしまったようです。
「超人気テレビ番組」を巻き込んだペテンによって、ある人物に好意を抱くのですが 彼との仲が気になりました。
【考察】『カエルの小指 a murder of crows』タイトルの意味
道尾秀介さんの小説と言えば、いつも気になるのがタイトルの意味です。タイトルに深い意味を含めた小説が多いイメージ。
前作『カラスの親指』は 「あの男」 を指していました。そこで気になるのは『カエルの小指』も誰かを指しているのか?
考察してみました。結論を先に言うと・・・
『カエルの小指』が指しているのは、中学生のキョウ。
- カエル→オタマジャクシの父親
- 小指→赤ちゃん指、カエルの子ども (オタマジャクシ) の意味。キョウを指している
『カラスの親指』に 手の指の話がでてきます。親指→お父さん指、人差し指→お母さん指、中指→お兄さん指、薬指→お姉さん指、小指→赤ちゃん指。親指だけが正面からそれぞれの指が見えるという小話。
カエルの赤ちゃん (オタマジャクシ) について書かれてるところがありました。簡単にまとめると・・・
- 1つの水たまりに、父カエルの背中から たくさんのオタマジャクシたちが放たれる
- エサがなくなったオタマジャクシたちは共食いをはじめる
- 水たまりにカエルを戻してみる
- オタマジャクシたちはカエルの背中へ逃げようとする。
オタマジャクシたちは カエルが現れるとカエルの背中を目指して逃げようとする。その姿が中学生のキョウに重なりました。
自分と母を捨てた父親。父親が誰かは書かないでおきますが、最後はキョウも父親の背中にしがみつけたのかなと思うと、複雑ですがホッとしました。
初めは小指=まひろ?と思いました。(『カラスの親指』で小指は まひろだったから) でも『カエルの小指』が キョウを中心とした物語になっていたので、彼女を指しているのではないかと。
なので『カエルの小指 a murder of crows』は、カラスの集団 (キョウ、竹夫、やひろ、まひろ、貫太郎、やひろの子ども・テツ) の中のカエルの小指 (キョウ) を匂わせたタイトル。
カラスにも意味があって、プロの詐欺師を指しています。カラスの集団というのはプロの詐欺師の集団です。

息もつかせぬ結末
結末はペテン、ペテン、ペテンの連続。騙しているつもりが騙されていたという、前作を思わせる展開です。これが面白い。
五羽はずっと、一羽を上手く欺しているつもりだった。ところが実際には、その一羽が五羽を欺しつづけていた。自分の目的を果たすために。
一羽の目的に 少しの切なさを感じました。でもそれで良かったのかなとも思ったり。
結局、タケさんは今回も親指ではなかったんだと苦笑い。あの男のようにはいかないものですね。
前作はこちら
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