- 柚月裕子さんの小説『盤上の向日葵』あらすじと感想・解説
- 魅力的な登場人物
- 過酷な将棋界
- 天才棋士・上条桂介は殺人犯?
- ゴッホの向日葵と狂気
- 悲しい結末
ネタバレあります。
本当に彼が犯人なのか?
柚月裕子さん『盤上の向日葵』感想です。表紙に描かれているのは雪と将棋の駒。過酷な将棋界とミステリーがバランス良く描かれていました。
真剣師の東明のキャラが凄まじく良かったです。ミステリーなのに、ほとんど泣きながら読みました。
『盤上の向日葵』あらすじ
柚月裕子が描く 慟哭のミステリー!!
埼玉県の山の中で白骨死体が見つかった。傍らには将棋の駒。石破と佐野は捜査に乗り出す。やがて浮かぶ1人の男。彼は天才棋士だった・・・。
『盤上の向日葵』感想
柚月さんの本を読むのは『臨床真理』、佐方貞人シリーズ『最後の証人』に続き3冊目です。登場人物が魅力的なんですよね。本作『盤上の向日葵』も。
刑事の石破と佐野、天才棋士の上条桂介、彼に将棋を教える唐沢、真剣師の東明・・・。
どのキャラも個性的。東明のキャラが凄まじくて面白いなと思いました。将棋はピカイチだけどプロ棋士にはなれず性格は最悪。
柚月裕子が描く過酷な将棋界

タイトルを見ると将棋のお話なのかなと思うのですが、あくまでもミステリー小説です。
その中心にあるのが将棋。読みやすいので、わからない人も難なく読めます。そして将棋に興味が持てる。
プロ棋士ってすごいですね。卓抜とした記憶力・・・。IQが低い私には、とてもじゃないけどマネできません。まさに超人のなせる技です。
天才棋士・上条桂介は殺人犯なのか?
実業界の寵児で天才棋士。本当にお前が殺人犯なのか?
帯をよむと何となくあやしい人物がわかってしまうのですが・・・。
埼玉県天木山山中で白骨死体が発見され、刑事の石破&佐野コンビは遺留品の線から捜査にあたります。
“実業界の寵児で天才棋士” とは上条桂介を指しています。
- 天才棋士・上条桂介は犯人なのか?
- 一緒に埋められていた初代菊水月作の名駒の意図するものは?
石破&佐野コンビの捜査 (遺留品である初代菊水月作の名駒の行方) と、上条桂介の幼少期からの過酷な人生が交互に描かれています。
石破&佐野コンビの地道な捜査も面白いことながら、桂介の幼少期ストーリーを読むと泣けてきました。彼が不憫に思えてなりません。
天才棋士・上条桂介は本当に殺人を犯したのか? 埼玉県 天木山で発見された遺体は誰なのか。
ところどころ推理しながら読んでいたのですが、最後までわからなかった部分があります。
高価な駒をなぜ遺体と一緒に埋めたのか。
売れば 600万にもなるという初代菊水月作の名駒。犯人が埋めた意図とは?
ずーっと疑問だったのですが、遺体の身元がわかったときに駒を一緒に埋めた犯人の気持ちが理解できたような気がしました。
ゴッホの向日葵と狂気
ゴッホの向日葵がでてきます。
『盤上の向日葵』というタイトル。盤上からは将棋が連想できます。向日葵は何を指しているんだろうと不思議に思いながら読んでいるとゴッホの絵画がでてきました。
フィンセント・ファン・ゴッホと言えば、原田マハさんの『たゆたえども沈まず』を読んだばかりでした。精神を患いながらも絵を描き続けたフィンセントを描いた物語です。

ゴッホが絵ににかける情熱と狂気。
それは『盤上の向日葵』でも感じたことです。過酷な将棋界を描いていますが、棋士たちの情熱、東明や後半の桂介からは ある種の狂気を感じました。
人は情熱をかけるほどのものがあれば強くなれる (良いか悪いかは別として)。
東明も桂介も・・・。ときとして、その強さは狂気となり得るものかもしれません。
呪われた運命と悲しい結末 (ネタバレ)
桂介がずっと見てきた盤上に咲く向日葵は 彼にとって導きであったはずなのに・・・。これも呪われた運命なのかもしれませんね。
ラストは悲しくなりました。
白骨死体は東明でした。桂介は自殺した東明を名駒とともに埋めたのです。やがて刑事が彼の元に・・・。桂介は線路に飛び込む。
もし彼から将棋がなくなったとしたら、この展開も致し方ないのかなと。彼の人生に思いを馳せてしまいました。


