『恩讐の鎮魂曲 (レクイエム)』あらすじ・ネタバレ感想|御子柴礼司シリーズ3|中山七里
- 『恩讐の鎮魂曲 (レクイエム)』あらすじと感想文
- 贖罪のあり方
- 被告人になった稲見教官
- 刑法第37条 「緊急避難」
- 屈辱の判決
- 倫子の手紙
ネタバレあります。ご注意ください。
裁かれなかった罪と贖罪
中山七里さんの小説『恩讐の鎮魂曲 (レクイエム)』感想です。御子柴礼司シリーズ3。
刑法第37条 「緊急避難」 が取り上げられていました。
裁かれなかった罪と贖罪のあり方が描かれていたよ。このシリーズは面白くて深いんだ。
御子柴礼司シリーズは『贖罪の奏鳴曲』『追憶の夜想曲』『恩讐の鎮魂曲』(←本作)『悪徳の輪舞曲』とあります。
順番通りに読むのがオススメ。
『恩讐の鎮魂曲 (レクイエム)』あらすじ
御子柴礼司シリーズ3
韓国船の沈没事故で女性から救命胴衣を奪った日本人男性は 刑法「緊急避難」が適用され無罪となった。そして医療少年院時代の恩師・稲見が殺人容疑で逮捕された。御子柴は弁護人に名乗り出るのたが・・・。稲見は本当に殺人を犯したのか?
『恩讐の鎮魂曲 (レクイエム)』ネタバレ感想文
前2作よりも御子柴礼司の人間味を感じられました。
公判での御子柴の慌てぶりが、いつもの彼らしくなかったです。彼の恩師が出てくるからかもしれませんね(次作『悪徳の輪舞曲』は御子柴の家族が出てきます)。
面白くて止まらなかったよ。
贖罪のあり方
御子柴礼司シリーズは、どれも 「贖罪」 について書かれています。
『恩讐の鎮魂曲 (レクイエム)』を読んで感じたことは、贖罪のあり方についてでした。
少年時代に 「死体配達人」 と呼ばれた園部信一郎 (後の御子柴礼司)。彼の贖罪は 「奈落から手を伸ばしている者を生涯かけて救い続ける」 こと。
救い続けることが、裁かれなかった彼の贖罪。
少年院を出るときに誓った言葉通りに、弁護士となった御子柴は、奈落に落ちた人たちを救っていきます。
殺人容疑で起訴された稲見は法の裁きを真っ当に受けることを望んでいました。
御子柴が懸命に弁護するも、自分の信念を貫くんだよね。
自分の罪に見合った法の裁きを受けることが、稲見の望む贖罪です。御子柴の気持ちもわかるけど、量刑を望む稲見の気持ちも尊重してあげたくなりました。
罪の償い方は1つじゃなくて、様々だと感じたよ。
稲見教官が被告人!?
御子柴の少年院時代の教官・稲見が殺人容疑で起訴されます。それを知った御子柴は、無理やり弁護を引き受ける。
御子柴の懸命の弁護にも関わらず、稲見は刑を受けることを望んでいました。
俺は栃野が憎くて殺した。間違いなく動機があった。しかも完璧に正常な精神状態の下でだ。その事実は何があろうと覆せん
公判では御子柴が悪態をつくこと度々。稲見が発言するときの御子柴の悲痛な心の叫びが、いつもの彼らしからぬように感じました。
御子柴は恩師を救うために抜け道はないかと思案します。
そこで思いついたのが刑法第37条 「緊急避難」 だったんだ。
刑法第37条 「緊急避難」
『恩讐の鎮魂曲 (レクイエム)』は、刑法第37条 「緊急避難」 を扱っています。
この世には人を殺しても罪に問われないことがある。戦争、死刑、少年犯罪、刑法第三十九条、そして緊急避難だ
韓国船ブルーオーシャン号の沈没事故で女性から救命胴衣を奪った日本人男性は 「緊急避難」 が適用され無罪となりました。その日本人男性が栃野守、稲見が殺害した被害者だったのです。
刑法第37条 「緊急避難」、初めて知ったよ。
御子柴は稲見の弁護に 「緊急避難」 をあて、無罪を主張。稲見が入所していた介護施設・伯楽園では、日常的に介護士による施設内虐待が行われていました。
稲見は、栃野に虐待を受けていた後藤を護るために危害を加えてしまったのですね。
「緊急避難」 が適用されるのか気になり、後半は一気読みだった。
屈辱の判決
稲見は最後の最後まで刑罰を受けることを望んでいました。被告と弁護人の目指すところの不一致は珍しい。
弁護人は被告人の行為が、〈緊急避難〉によるやむを得ない措置であったがゆえに無罪であると主張します
御子柴にとっては屈辱の判決となりました。懲役6年―。「緊急避難」 は適用されなかったのです。
でもそれで良かった。「緊急避難」 が適用されて稲見が無罪になったら、モヤモヤ感が残ったかもしれません。
日本の法律って、「緊急避難」 や刑法39条、少年法をみても、加害者のことを考えたものになっているよね。
被害者側の立場としてものを考えたとき、到底納得できるようなものではないです。稲見が殺害した被害者は碌でもない男だったけど・・・。
『恩讐の鎮魂曲 (レクイエム)』救いの手紙に救われた
御子柴に届いた倫子からの手紙に救われました。
倫子は前作『追憶の夜想曲(ノクターン)』の登場人物です。
恩師を無罪にすることができなくて気落ちしていた御子柴。彼が倫子の手紙を読んで泣いたシーンが印象的でした。
今回は御子柴礼司の心がゆらぐシーンが何回もあって、人間味を感じたよ。