「犯罪症候群」あらすじ・ネタバレ感想|響子と渉の復讐と悲しい結末『殺人症候群』貫井徳郎

- 『殺人症候群』あらすじと感想文
- 復讐の是非
- 職業殺人者は正義か
- 倉持の過去
- 結末と復讐の末路
少しだけネタバレあります。
復讐は悪なのか―
貫井徳郎さんの小説『殺人症候群』感想です。東海テレビ×WOWOW共同制作ドラマ「犯罪症候群 season2」原作。
「失踪」「誘拐」「殺人」症候群シリーズ3作目にて完結編です。
3作品の中で本作が一番読み応えがありました。後味の悪さも逸品。

好き嫌いわかれそうだけど、読み応えがあったよ。
『殺人症候群』あらすじ
殺人者の末路とは?
捜査課が表立って動けない事件を処理する警視庁内の特殊チーム。リーダーの環敬吾は一見無関係と見える複数の殺人事件の繋がりを探すよう部下に命じる。一方、看護婦の和子は、事故に見せかけて若者の命を次々に奪っていた・・・。
『殺人症候群』ネタバレ感想文
シリーズの中では一番面白いと言われ、群れを抜いていた『殺人症候群』。
全く救いのないラストに、読後感は果てしなく悪いですね。その理由からレビューの評価は割れているようです。

確かにある意味、傑作だった。
問われる復讐の是非

本のテーマは、復讐の是非です。
それを考えるなら軽い話ではないと容易に想像がつくのだけど、ここまで救いがないとは・・・。
ここで問題になっているのは、少年法や心神喪失者は罰しないという法律の壁です。

反省していればいいんだよね。でも少年たちは反省も何もしていない・・・。
被害者の家族たちの苦しむ姿と、反省もせずにのうのうと生きている加害者の姿は理不尽です。それが復讐へと駆りたてました。
前に読んだ小林由香さんの『ジャッジメント』を思い出します。

復讐が法律で認められていて、重く苦しいお話。それを実行するのにもエネルギーがいるんですよね。
『殺人症候群』では、遺族の代わりに復讐を代行してくれる職業殺人者が描かれていました。
職業殺人者は正義か
環の元に集められた私立探偵の原田、托鉢僧の武藤、肉体労働者の倉持。
殺人を代行する人物、職業殺人者とは・・・?
実はこの小説、職業殺人者なる人物が最初の方で判明するんですよね。
犯罪被害者の響子と渉です。

彼らの視点と彼らを追う環チームの視点など、様々な登場人物の視点で描かれていたよ。
復讐を正義だと思う響子と実行犯の渉。ふたりは遺族のために復讐を決行していきます。もう後戻りはできない地獄への道・・・。

最後の方で、ふたりの心がすれ違ってしまうのは悲しくなった。
響子には共感ができなかったです。渉のことばに強く頷いたけど、少年法や心神喪失者は罰しないという法律にモヤモヤした気持ちになったり・・・。
難しいですよね。必ずしも法律は万全ではないから。
事件を追う鏑木刑事

他にも殺人が描かれていました。『殺人症候群』なんて、ちょっと怖いタイトルだけど、この本にはぴったりです。
心臓移植を待ち望む息子のために人を殺めていく母・和子。狂ってるけど、和子の視点でも描かれているから苦しい心情に胸が痛みました。
事件を追うのは鏑木刑事です。

ドラマ「犯罪症候群 season2」では鏑木刑事が主演だよ。
谷原章介さんが演じられていました。ドラマでは鏑木護・・・。実は小説と名前が違うのだけど、彼もまた復讐という地獄にどっぷりとハマっています。
この鏑木が曲者なんですよね。小説ってこういう騙しもできるから面白い。ドラマでは味わえない醍醐味です。
明かされる倉持の過去
完結編で倉持の暗い過去が明らかになります。
『失踪~』では原田の過去が明らかになり、『誘拐~』では武藤の過去が。・・・環は最後まで謎のままでした。
環の元に集まったとき、倉持真栄はこの件から降りました。彼もまた犯罪被害者遺族だったのです。過去に妻子を殺されて、でも加害者は罰を受けずに不起訴・・・。

彼の怒りは宙ぶらりんのまま。
環の指令を降りたはずなのに、原田と武藤が追っている職業殺人者の近くに姿を現す倉持。
彼はいったい何を考えているのか?ここにも復讐の是非が問われます。
最後に環チームがバラバラになってしまったのは残念でした。前作では環と武藤の間に亀裂がはしり、大丈夫かと心配だったけど見事にバラバラです。

チーム環、解散・・・。
『殺人症候群』後味の悪い結末と復讐の末路
彼らの末路が悲惨すぎました。
他人の命を手にかけた者に 幸福な末路などあり得ない
まさにこの言葉どおりの結末。かなり後味の悪いお話ですね。でもこの言葉は私もそのとおりだと思いました。
幸せな末路なんて訪れるわけがない。
唯一の救いは和子の息子の移植でしょうか。たとえ息子のためでも何人もの人を殺めた和子や、職業殺人者の響子と渉の末路を思うと復讐が正義であるわけがありません。

かなりの衝撃作だった。

