『夜市』あらすじ・ネタバレ感想文|恒川光太郎|美しくも哀しいラスト
- 短編小説『夜市』あらすじと感想文
- 妖怪たちのフリマ
- 弟を売った兄
- 老紳士の回想
- 結末について
少しだけネタバレあります。
今宵は夜市が開かれる―
恒川光太郎さんの短編小説『夜市』感想です。先日読みました『滅びの園』がとても面白くてハマりました。恒川さん2冊目『夜市』。
私が読んだのは文庫版です。表題作「夜市」と、書き下ろし「風の古道」が収められていました。
どちらも好き!!ファンタジーよりのホラー小説だよ。
『夜市』あらすじ
今宵、「夜市」が開かれる
裕司から「夜市にいかないか」と誘われた大学生のいずみ。「夜市」 が開催される岬の森は、この世ならぬ不思議な市場が開かれていた。小学生のころに夜市を訪れた裕司は、弟と引き換えに「野球の才能」を買ったのだという。そのことをずっと後悔していた。そして今夜、弟を買い戻すために夜市を訪れたのだった―。第12回日本ホラー小説大賞受賞作。
『夜市』ネタバレ感想文
切なくて胸がきゅっとなりました。
日本ホラー小説大賞受賞作。・・・括りではホラーだけど、ほとんどファンタジーですね。
妖怪などが出てくるのはホラー感がありました。でも程よいヒヤリ感で、あまり怖くありません。
ホラーが苦手な人も難なく読めるんじゃないかな。
「夜市」は妖怪たちのフリマ!?
恒川さんが描く物語は世界観が良いんです。ここでは妖怪たちが出店する「夜市」が舞台でした。主人公・いずみが裕司に連れられて行った、この世ならぬ不思議な場所。
「夜市」には何か買うまで出られないというルールがあります。恐怖のフリマ。売っている商品がまた何とも言えず・・・。
不気味だけど行ってみたい。
恒川さんの異世界は、ちょっぴり怖いけど懐かしい気持ちになります。これが本当に心地良い。
行ったことないのに、懐かしいような感覚。
宮崎駿さんのアニメ『となりのトトロ』や『千と千尋の神隠し』を連想しました。中身はぜんぜん違うけど、誰でも行けるわけではないとか。
『夜市』に一緒に収められている「風の古道」も同じで、懐かしい気持ちになりました。
弟を売った兄
裕司は、ここに来るのが2回目でした。小学生のころ「夜市」に迷い込んだ裕司と弟。彼は取り返しのつかない取り引き(買い物)をしてしまいます。人攫いの店で弟と引き換えたものとは・・・
野球の才能―。
過ちを犯してしまったけれど、誰も兄を責められないよね。まだほんの小学生だったし、ずっと後悔しているから。
弟を買い戻すために、再び「夜市」を訪れた裕司。願いは叶うのか?
いずみを通して兄と弟を見ていると深い哀しみを感じます。2人がそれぞれ背負ったものは重い。
兄は弟を案じ、後悔の念を背負ったまま生き続けます。地獄のような日々でしょうね。そして弟は・・・。
老紳士の回想
コートにハンチング帽の老紳士が妖怪のお店で「なんでも斬れる剣」を見ていました。・・・物騒なものを見ている、なぞの登場人物です。
異なる世界で暮らしていた人々が「夜市」で出会い、ほんのひとときを過ごす。「夜市」は不思議な場所ですね。
老紳士の回想が切なかった。
初めて「夜市」を訪れたとき、とっさに自由を手に入れた老紳士。でもその先にあるのは過酷な現実でした。
自由は素晴らしいけど、責任は全部じぶんに降りかかってくるものです。美味しいとこ取りというわけにはいかないのですね。
深い哀しみを感じる結末
「夜市」は魅力的な場所だけど、余程の覚悟がないと恐ろしいことになります。でもそこに惹かれてしまう。
恒川さんが描く世界はピリッとした怖さと美しさがありました。
ラストは深い哀しみに包まれる。この余韻がなんとも言えないです。今宵も、ここではないどこかで「夜市」が開かれているかもしれません。
怖いけど行ってみたい。