『図書館の魔女 高い塔の童心』ネタバレ感想文・あらすじ|マツリカの幼少時代を描いた前日譚|高田大介

- 『図書館の魔女 高い塔の童心』あらすじと感想文
- 『図書館の魔女』シリーズ読む順番
- 「起こらなかった第三次同盟市戦争」タイキの怒り
- 「不味くなった海老饅頭」マツリカの慧眼と童心の行方
- 涙があふれたハルカゼの心理描写
ネタバレあります。ご注意ください。
『図書館の魔女』前日譚
高田大介さんの小説『図書館の魔女 高い塔の童心』読書感想です。図書館の魔女シリーズ最新刊。
マツリカの幼少時代が描かれた前日譚
前作『図書館の魔女 烏の伝言(からすのつてこと)』から10年?・・・まさか『霆ける塔(はたたけるとう)』より先に、マツリカの幼少時代が読めるなんて想像もしていませんでした。

嬉しすぎて涙でてきた。
実は発売前にメフィストで読んでいたのだけど、感想を控えていました。そして今回Kindle版を購入。改めてこのシリーズに出会えた幸せを噛みしめています。
『図書館の魔女 高い塔の童心』あらすじ
待望の『図書館の魔女』前日譚!
多様な都市国家の思惑が交差する海峡地域。その盟主、一ノ谷には「高い塔の魔法使い」と呼ばれる老人タイキがいた。歳のころ六、七である孫娘マツリカは、早くに両親をなくし祖父のもとに身を寄せている。ある日、タイキを中心に密談が開かれた。海を隔てた潜在的敵国・ニザマとの海戦に備えてのものだった。一方、マツリカは好物の海老饅頭の味が落ちたことを疑問に思い、その理由を解き明かそうとする。国家の大計と幼女の我が儘が平行し、交錯していく・・・。
『図書館の魔女』シリーズ、読む順番を簡単に解説

『図書館の魔女』シリーズは言語学者である高田大介さんが描くファンタジー小説です。ひとことで言うと、濃密な言葉のファンタジー。
「言葉って、なんだろう」・・・と、深く考えたくなる物語なんです。

発売順をまとめてみたよ。
かなりの巨編(『霆ける塔』はこれから刊行予定)ですよね。でも面白いんです。マイベスト小説と言えるくらい好きで、幸せな読書体験を味わえました。
本作『図書館の魔女 高い塔の童心』は主人公の少女マツリカの幼少時代が描かれています。
- 『図書館の魔女 高い塔の童心』から読んでも大丈夫?
-
刊行順に読むのがオススメ。本作の物語は一冊で完結しているけど、少なくとも『図書館の魔女』文庫版4冊は読んでからの方が理解が深まります。

『図書館の魔女』マツリカの幼少時代(童心)には、グッとくるものがあったよ。
『図書館の魔女 高い塔の童心』ネタバレ感想文|起こらなかった第三次同盟市戦争と海老饅頭

『図書館の魔女』シリーズで味わえる読書体験は、私にとっていつも共通するものがあります。
文章を目で追う心地よさと、読み終わるのが名残惜しい気持ち

高田さんが綴る文章が好きなんだよね、きっと。
難しい言葉が多いけど心地よさも感じられるんです。そして後半にいくにつれて、読み終わるのがもったいない気持ちになります。もっと浸っていたいと名残惜しくなる。
『図書館の魔女 高い塔の童心』も、そんな読書体験を味わえました。

ハルカゼ目線で描かれていて、彼女の心の葛藤やマツリカへの思いが胸をついたよ。
起こらなかった第三次同盟市戦争|タイキの怒り
「起こらなかった第三次同盟市戦争」、確か『図書館の魔女』でもチラッと言葉だけ出てきてましたよね?
「起こったこと」については歴史に記されて後世に残るけど、「起こらなかったこと」というのは歴史にも記されず、はじめからなかったことにされてしまいます。でも・・・、
第三次同盟市戦争は起こらなかった。そこには起こらなかった理由があったのかもしれない
裏ではタイキの画策があって、起こりうる戦争を押し留めていたのです。この「起こらなかった理由」についての様々な画策が興味を引きました。
例えば、ニザマの弩弓の製法について
それを調べるタイキの目的が後半で明かされたときは、思わず背すじがヒヤリ。・・・それもニザマの中書令ミツクビに宛てた一通の手紙に書かれた親切な文面からです。

さすが「高い塔の魔法使い」。穏やかな文面なんだけど、透けてみえる底意(挑発・・・いや、これは脅し?)がヤバイ。
こういうところ、面白いんですよね。一見、当たり障りのない丁寧な文章なんだけど、受け取る側には脅しにもなるという・・・。
しかもその書簡を届けたのがキリヒト(先代の方)でした。タイキとキリヒトはニザマに乗り込んでいってしまうのだから、すごい。この辺りも面白く読み応えがありました。

「起こらなかった第三次同盟市戦争」。そこには起こらなかった理由というのがちゃんと存在していたんだ。
様々な画策を用いて戦争を止めたタイキの原動力、それは怒りです。ハルカゼに語るシーンは胸が痛みました。
娘が暴動で殺されてしまった
タイキの娘ってことは、マツリカの母ですか。
『図書館の魔女』シリーズを読んできて、そういえば、あまりマツリカの両親に思いを巡らせたことがなかった・・・と気づきました。悲しい事実が明らかになったけど、少しでもふれることができて良かったです。
武器を手に集まっている群衆、声を合わせて叫んでいる群衆というものは……愚かなんだよ。危険なまでに愚かなんだ
タイキの言葉が胸に残りました。辛い過去を経ての今、そして月日が流れても消えない怒り・・・。タイキという人物像に人間味が増しますね。
「不味くなった海老饅頭」原因究明|マツリカの慧眼と童心の行方
本作でも幼いマツリカの慧眼は鋭くてドキッとしました。
「なぜ海老饅頭が不味くなったのか」
原因究明をする過程で、北部直轄地との通商路を開き、氷と塩の流通を新たに確保したマツリカ。・・・さすがです。

海老饅頭というのが可愛らしい。タイキの好物だったんだね。ちょっとほっこりしたよ。
「不味くなった海老饅頭」の原因究明が面白く、タイキと同じようなことをやってのける姿に圧倒されました。幼子だけどあまり子供らしくないマツリカ。
タイキがハルカゼに語った娘(マツリカの母)の下りを読むと、マツリカの気持ちが気になってきます。
本当なら……あの話の何処に、マツリカはいたのだろう。そして何処で、どれほどの悲しみと苦しみと怒りとを味わっていたのだろう

タイキの話には、その時のマツリカはでてこなかったね。
幼いときから色々我慢してきたのかな。子供なのに子供らしからぬマツリカの童心はどこにいったのか・・・。切なくなりました。
ハルカゼの心理描写に泣く|マツリカへの思いと負い目

『図書館の魔女 高い塔の童心』を読んで一番心に染みたのは、ハルカゼの心情が描かれているところです。
ハルカゼからみたタイキと、マツリカ
特にハルカゼがマツリカに抱く思いを読んだとき、涙があふれました。
こんな小さな身体に、あのような歪とも言えるまでの知性は重すぎやしないだろうか。こんな軽い身体に、これから私たちはどれほどの重責を課していこうとしているのだろうか
『図書館の魔女』を読んでいると、あまりにも卓越したマツリカの慧眼に圧倒されて、ついつい少女だということを忘れてしまうんですよね。

マツリカを案ずるハルカゼの思いが温かくて、知性がありすぎるマツリカが不憫に思えてきちゃった。
ハルカゼはウルハイ家との繋がりがある人物。必要に応じて図書館の情報をウルハイに融通する間諜の密命を背負っています。
もしも、自分の出自についてマツリカに問われたら?
マツリカを尊敬し案ずる一方で、間諜という裏切りに近いような立場であることに負い目を感じている描写がありました。

ハルカゼはマツリカを心から慕っているんだ。だから苦しんでるんだよね。
この頃のマツリカはまだハルカゼをそんなに慕ってないかもしれないけど、本編『図書館の魔女』での展開(マツリカとハルカゼ、キリンの信頼関係)を思うと胸が熱くなります。
最も、言葉をあやつり情報戦に長けたタイキとマツリカの前では、誰が間諜であろうがなかろうが、それも織り込み済み・・・なのかもしれないけど。
『図書館の魔女 高い塔の童心』はシリーズファンにおすすめの一冊
10年ぶりのシリーズ新刊『図書館の魔女 高い塔の童心』は、ファンにはたまらない一冊でした。

もう一度『図書館の魔女』読みたくなったよ。
このあと絶対読みますね、シリーズを最初から。『霆ける塔(はたたけるとう)』も近々(?)刊行されるとのことなので楽しみです。

『図書館の魔女 高い塔の童心』おすすめだよ。シリーズ未読であれば『図書館の魔女』から読もう。


