『嘘つきジェンガ』ネタバレ感想文・あらすじ|優しい結末にほっこり!詐欺をめぐる物語|辻村深月
- 『嘘つきジェンガ』あらすじと感想文
- 「2020年のロマンス詐欺」
- 「五年目の受験詐欺」
- 「あの人のサロン詐欺」
- タイトルについて
ネタバレあります。ご注意ください。
一線を越えたら、もう戻れない。
辻村深月さんの小説『嘘つきジェンガ』読書感想です。3つの短編集。どれも読みやすくてサクサク読めました。
『嘘つきジェンガ』は「詐欺」をめぐる物語です。
騙す側と騙される側の視点で描かれていたのが目を引きました。一歩間違えればどちら側になってしまうこともあり得る怖さ・・・。
「詐欺」は身近にある犯罪ですね。
面白かったよ。
『嘘つきジェンガ』あらすじ
3つの短編集
大学進学のため上京した加賀耀太だったが、4月7日、緊急事態宣言が発令されてしまう。入学式は延期され、授業やサークル活動どころかバイトすら始められない。地元の友人・甲斐斗から連絡が来たのはそんなときだった。「メールでできる簡単なバイト」を紹介してくれるというのだ。そのバイトとはロマンス詐欺の片棒を担ぐことだった・・・。「2020年のロマンス詐欺」より。
『嘘つきジェンガ』ネタバレ感想文|詐欺をめぐる3つの物語
『嘘つきジェンガ』を読んでいて、以外だったのが読後に感じる「温かさ」でした。
3つの短編集のどれもが「詐欺」を扱っているのに、読後感が良いんですよね。それのおかげで新たな出会いがあったり、親子の絆が深まったり・・・。
もちろん「詐欺」は犯罪で悪いことなんだけど、結末に辻村さんの優しさを感じました。
暗くならず重くもなくて、心がほんのりと温まったよ。
それぞれの主人公たちの着地(結末)が気になり、読むのをやめられなくなります。どんな結末になるんだろ・・・と、さまざまな最後を想像しながら読んでいました。
これほど推察をくり返しながら読んだ本は他にないかもしれません。
「2020年のロマンス詐欺」夢をみるのは悪くない!
「2020年のロマンス詐欺」は、バイト感覚で詐欺に加担した大学生の男の子が描かれています。
まだ記憶に新しい、緊急事態宣言が出たコロナ禍での物語でした。加賀耀太は進学のために上京するも大学は休校。友だちもいなくてお金もない孤独な生活を送ります。
切羽詰まったときこそ、犯罪に手を染めてしまうものなのかもしれません。騙す側にも並々ならない事情があったりするんですよね。
ダメだよと思いながらも、ちょっぴり同情しちゃうところもあった。
偽りの身分「六本木のIT企業の社長」をすんなり信じてしまう人々。騙す側の耀太が彼らに抱いた思いが心に刺さりました。
皆、自分に価値があると思いたい。自分だからこの相手に選ばれたのだという〝夢〟を見たいのだ
辻村さんはこういう心理描写が上手いですね。誰だって夢をみてしまうし、夢をみるのは悪くないんです。心のスキマに入り込む詐欺こそが悪。
「ロマンス詐欺」を働く輩はみんな滅びてしまえ!・・・と思うけど、耀太に関しては優しさにあふれた結末で良かったです。
「五年目の受験詐欺」親子の絆
「五年目の受験詐欺」は息子の中学受験をめぐり、詐欺に騙された母親の物語。
塾の経営者まさこ先生にお金を払い、特別紹介をしてもらって息子・大貴は志望校に合格。・・・裏口入学ですね。でも、それが後に詐欺だったと発覚します。
お金を払ったのは母親・多佳子の独断だったとはいえ、子を思う母の気持ちを利用して詐欺を働くのは悪質な手口。
これはひどいや。
一番心が傷んだのは多佳子の心理描写を読んだときでした。
あの子は自分の力で受かったのか。私は、大貴を信じなかったのか
裏口入学をする=自分の子どもの実力を信じていない、ということです。
今回は詐欺だったわけだから、実際には裏口入学ではなくて大貴は実力で試験をパスしました。
実力があったのは嬉しいけど、子どもを信じきることができなかった負い目・・・。
多佳子の気持ちは複雑だ。
一番心配だったのは大貴です。詐欺が発覚したら母親が彼を信じていなかったことも伝わってしまうし、学校で注目されてしまうかもしれません。
でも、そこはさすがの辻村さん。親子の絆が深まり、素敵な結末でした。大貴、良い子なんですよね。
「あの人のサロン詐欺」満たされない彼女の心
3編の中で一番印象に残ったのは「あの人のサロン詐欺」でした。騙す側を描いた一話です。
主人公は有名漫画家・谷嵜レオ本人だと偽り、ファンが集うサロンを定期的に開く女性・紡。
サロンは会費がかかるから、これは「詐欺」だ。
騙されているファンのことを思うと胸が痛むけど、どうしても彼女が嫌いになれませんでした。
最初から最後まで、紡は純粋に谷嵜レオが好きだったのですよね。彼の漫画が好きで本人になりたいくらいに憧れて。・・・その気持ちはよくわかるんです。
こんな文章がありました。
羨ましい、と純粋に思う。いいなあ、と声に出る。そして、泣きそうなくらい、強烈に思うのだ。私、どうして、本物の谷嵜レオじゃないんだろう
漫画家志望だけど、夢が叶わない紡の切実な思いが心に刺ささったよ。
谷嵜レオ本人よりも、ずっと谷嵜レオらしい彼女。心が満たされず、ファンを騙し続けた紡の行く末が気になりました。
『嘘つきジェンガ』タイトルが深い!一線を越えたら、もう戻れない
『嘘つきジェンガ』を読み終わると、このタイトルにしっくりくるんですよね。
ひとつ嘘をつくと、ジェンガが積み上がるように嘘をつき続けなければならない。バランスを崩すと一瞬で全て崩れてしまう。
「ジェンガ」は、互い違いに組み合わせたブロックで作った塔からブロックを抜いて積み上げていくバランスゲームです。
ジェンガに例えられている「詐欺師」たちは、危うい綱渡りをしているように感じました。一線を越えたら、もう戻れない・・・。
たとえどんなにバランスをとっていても、最後には崩れるものだからね。
『嘘つきジェンガ』結末にほっこり
詐欺をめぐる3つの物語『嘘つきジェンガ』は、短編ながらどれも読みごたえがありました。
作者・辻村さんの優しさに、ほっこり。
結末が良いんだ。
でも、嘘をついた人々はみんな内心ではビクビクしているんです。そういう精神状態で暮らしていくのは、しんどいだろうなとも感じました。