『銀河英雄伝説5 風雲篇』あらすじ・ネタバレ感想文|バーミリオン星域会戦|田中芳樹
- 『銀河英雄伝説5 風雲篇』あらすじと感想文
- ヤンの狙い
- 双頭の蛇の陣形
- ブラック・ホールの戦略
- バーミリオン星域会戦
- 心に残った言葉
ネタバレあります。ご注意ください。
私は勝つためにここへ来たのだ、ミッターマイヤー
田中芳樹さんの小説『銀河英雄伝説5 風雲篇』読書感想です。第4巻〈策謀篇〉から描かれている銀河帝国と自由惑星同盟の宇宙戦争が終結を迎える第5巻。
この巻をもって、ゴールデンバウム王朝の終わりが告げられるんだ。
『銀河英雄伝説』では、とりあえずのひと区切り・・・と言ったところでしょうか。ちょうど本伝全10巻の中盤ですね。
帝国軍と同盟軍の戦いは苛烈。まさに死闘だったよ。
『銀河英雄伝説5 風雲篇』あらすじ
大河SF小説
フェザーンを制圧下に置いた帝国軍は、今や同盟首都の目前にまで迫っていた。ヤンはイゼルローン要塞放棄を決断、民間人を保護しつつ首都へ急行する。圧倒的な優勢を誇る敵軍に対し、ヤンは奇策を用いて帝国の智将たちを破っていくが、ラインハルトの大胆な行動により、彼との正面決戦を余儀なくされる。再び戦火を交える“常勝”と“不敗”。勝者となるのははたしてどちらか。
『銀河英雄伝説5 風雲篇』ネタバレ感想文
永らく続いたゴールデンバウム王朝が終わりを告げる『銀河英雄伝説5 風雲篇』。スッキリと終結するものではなくて、ラインハルトの即位にはモヤモヤ感が残りました。
ヤンやラインハルトの気持ちを想像しながら読んでいたから・・・。
それでも勝利を手にしたのはラインハルトです。彼の策略はもちろんですが、最後は周りの人(ヒルダやミッターマイヤー、ロイエンタール)が勝利を導きました。
ラインハルトの周りには素晴らしい人材が集まっていますね。
イゼルローン要塞を放棄|ヤンの狙いとは?
第4巻に続き、イゼルローン要塞で銀河帝国ロイエンタールと交戦していたヤン。彼の突然の指示に背筋が伸びます。
「イゼルローン要塞を放棄する」
勝っても負けても、講和条件としてイゼルローン要塞を返還することになるから、その前にくれてやっても大差はない・・・という理由からでした。
まぁ、もともとイゼルローンは帝国軍の要塞だったからね。
でも自分の住まいを失うも同然だから、いずれまた奪還してほしいな。
イゼルローン要塞を放棄したヤンは、銀河帝国軍に勝つための唯一の方法を見出していました。
ラインハルトを戦場で倒すこと。
ラインハルトは独身だから、彼が死ねば部下たちは誰のために戦うかを問いなおすために帝国へ帰還し、後継者の座をめぐって激しく対立するだろう・・・というわけです。
ヤンの読みは正しいですよね。銀河帝国においては、ラインハルト以外に皇帝に相応しい人物が思い当たりません。
ラインハルト、存在感ありすぎです。
双頭の蛇の陣形
多くの宇宙戦争が繰り広げられる『銀河英雄伝説』。その中で興味を引くものに、闘うときの陣形があります。
第1巻〈黎明篇〉で描かれたアスターテ会戦では、「なんたるぶざまな陣形だ!」と憤慨したラインハルトが陥ったリング状の陣形。想像すると面白いんですよね。
第5巻では、帝国軍の「双頭の蛇の陣形」が出てきました。
頭が2つあるヘビ? 想像すると怖いかも。
宇宙空間に一匹の巨大な蛇を想定した陣形です。いっぽうの頭を襲えば、もういっぽうの頭がうごいて敵にかみつく。胴体が襲われれば、ふたつの頭が同時に動き敵にかみつくという・・・。
凄まじい陣形だ。
「双頭の蛇の陣形」で同盟軍を待ち受ける帝国軍。ラインハルトは前線に出ていこうとします。
「私は勝つためにここへ来たのだ、ミッターマイヤー、そして勝つには戦わなくてはならぬし、戦うからには安全な場所にいる気はない」
ラインハルトらしいですね。自ら前線に趣き敵を討つ。安全なところに座って事態を眺めている同盟トリューニヒトとは大違いです。
こういうところ、ラインハルトの魅力でもあるんだ。
ブラック・ホール|ヤンの策略
1番面白かった宇宙戦争は、宇宙暦799年3月のブラック・ホールを使ったヤンの戦略です。
ブラックホールの前に布陣した同盟軍に、帝国軍シュタインメッツが挑む。
「つまり奴らはブラック・ホールを後背にして布陣しているというのだな。どういうつもりだ」
初めは押されていた同盟軍だったけど、突如として急進し、シュタインメッツ艦隊の中央を突破。帝国軍をブラック・ホールへ追い込む戦略は成功しました。
ブラックホールを使った戦略が面白い。ヤンはすごいや。
まさに奇蹟のヤンです。これまで彼は「逃げる」あるいは「被害を最小限に味方を逃がす」戦略ばかりだったけど、積極的に闘う戦略はもはや天才級。
ラインハルトもすごいけど、ヤンも負けてない。
バーミリオン星域会戦|ラインハルトvsヤン
最終決戦となった「バーミリオン星域会戦」で、ラインハルトは自らを囮としてヤンを待ち受けます。
私が孤立したと見れば、ヤン・ウェンリーは洞窟から野原へでてくるだろう。網をはって、そこを撃つのだ
ラインハルトの囮作戦にはドキドキしたよ。
ラインハルトは、その戦略をワインを用いて部下に説明していました。最初読んだときはわからなかったけど、実際、彼の囮作戦が決行されると、あぁ、こういうことか・・・と理解できるんです。
同盟軍メルカッツは、ラインハルトの戦略をこのように言っていました。
「まるでパイの皮をむくようだ。あとからあとから、つぎの防衛陣があらわれる」
帝国軍の防御陣を突破していったメルカッツ。でもいくら突破しても一向にラインハルトまでたどり着けません。
ひとたび突破された防御陣は、左右に拡散し味方の後方にまわりこんで、あらたな防御陣の一部となっていたのです。
これは疲れるな。無限の防御陣だ。
いずれヤンの気づくところとなり、彼の指示によって防御陣は破られ、ラインハルトは追いつめられる・・・。
「バーミリオン星域会戦」は、帝国軍が有利になったり、同盟軍が有利になったりを繰り返すのですよね。
『銀河英雄伝説5 風雲篇』心に残った言葉
『銀河英雄伝説5 風雲篇』で、心に残った言葉がいくつかありました。その中でも特に印象的だったのは2つです。
- ヤンのプロポーズ
- ラインハルトの絶望
詳しくみていくね。
ヤンのプロポーズ
宇宙戦争がメインでしたが、ほっこりしたのがヤンからフレデリカへのプロポーズシーンです。
言わなくて後悔するよりは言って後悔するほうがいい……ああ、こまったものだな、さっきから自分のつごうばっかり言ってる。要するに……要するに、結婚してほしいんだ
どこまでも軍人に見えないヤンだけど、そこが彼の魅力なんだよね。
軍人というより学者っぽい雰囲気のヤン。でも彼の戦略は、ラインハルトに負けず劣らず天才的なんです。
フレデリカも素敵な女性でした。エルファシルの戦いからヤンを見続けてきた彼女は、副官としても優秀。
ヤンとフレデリカ、お似合いの2人だ。
ラインハルトの絶望
「バーミリオン星域会戦」でヤンに追いつめられたラインハルト。彼がキルヒアイスに問いかける言葉に絶望感を感じました。
「勝ちつづけて、勝ちつづけて、最後になって負けるのか。キルヒアイス、おれはここまでしかこれない男だったのか」
今までの会戦では、余裕で勝利をおさめていたけど、今回ばかりは複雑だった。
でも勝ったのはラインハルトです。めちゃめちゃ強運の持ち主ですね。
突然、同盟軍に下った「無条件停戦命令」。
ヤンは命令に従い、帝国軍への攻撃を停止する・・・。ラインハルトは、勝利を譲られたカタチになったのです。
もし命令が下らなければ、勝っていたのはヤンだったかもしれない。
運はラインハルトに味方したけど、彼の性格を考えると素直には喜べず、しこりが残る勝利となりました。
ゴールデンバウム王朝からローエングラム王朝へ
ラインハルトが皇帝に即位し、永らく続いたゴールデンバウム王朝が終わりを告げました。ローエングラム王朝の始まりです。
気になるのはフェザーンのルビンスキーと地球教・・・。
ちょこちょこ出てきては、気になる動向が伺えました。ラインハルトもヤンも、ルビンスキーの手のひらで踊らされているような不気味さを感じます。
ヤンが逃したメルカッツやシュナイダーも気になる。今後の展開が楽しみだ。
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