『イノセンス』あらすじ・ネタバレ感想文|罪と救済、タイトルの意味を考察|小林由香
- 『イノセンス』あらすじと感想文
- テーマについて
- 音海星吾の罪
- SNSの恐怖
- 周りの人の救済
- 優しい結末
- タイトルの意味を考察
ネタバレあります。ご注意ください。
一度大きなミスをした人間は、死ぬまで許されないのだろうか─。
小林由香さんの小説『イノセンス』読書感想です。小林さんの本はデビュー作『ジャッジメント』に衝撃を受け、その後も欠かさず読んできました。
少し重めミステリーだけど、心に響くんだよね。
復讐法を描いた『ジャッジメント』、涙腺崩壊した『罪人が祈るとき』、子どもの救済がテーマの『救いの森』。そして『イノセンス』。
過去に過ちをおかしてしまった少年の救済を描いた物語だよ。
『イノセンス』あらすじ
「罪」と「救済」の物語
音海星吾は中学生時代、不良に絡まれた星吾を助けようとした青年を見捨てて逃げてしまう。青年はその後死亡、星吾は世間の誹謗中傷を浴び続ける。大学入学後も彼は心を閉ざしていたが、ある日、ホームから飛び降りようとした中年男性に心無い言葉をぶつけてしまう。そんななか、星吾を狙うように美術室の花瓶が投げ落とされ、車道に突き飛ばされるという事件が起こる。星吾を襲う犯人の正体は?そして星吾の選択とはー。
『イノセンス』ネタバレ感想文|テーマは「罪」と「救済」
『イノセンス』小説のテーマは「罪」と「救済」。
主人公の大学生・音海星吾が背負った罪と、救済が描かれた苦しくも温かい物語です。
だれにでも過ちはあるもの。許されるわけではないけど、心から悔いているのなら「救済」があっても良いという思いが伝わってきました。
ラストは救われた気分になった。
音海星吾の罪
主人公の大学生・音海星吾は14歳の時におかしてしまった罪を引きずって生きていました。
恐喝にあった星吾を助けた青年・氷室が刺されて死亡。星吾は怖くて逃げ出してしまう。
もしも、あの時すぐに救急車を呼べば、救えたかもしれないー。
14歳にして、重い十字架を背負ってしまったんだね。
彼が気の毒になりました。罪と言っても、当時はまだ14歳。そして星吾も恐喝の被害者であるのだから・・・。
大学に入っても人と深く関わらず、死んだように生きていた星吾。自分で作り出した幻影・氷室に怯えて暮らしていました。
一度大きなミスをした人間は、死ぬまで許されないのだろうか─
この言葉が胸にズシンときます。星吾が背負った罪は、どんなことをしても一生消えないんですよね。
楽しいことがあって幸せを感じても、心の片隅では被害者遺族の苦しみも意識してしまう。
でも、これは仕方のないことだと思う。
SNSの恐怖
星吾や彼の家族の情報がSNSで拡散されたのは、今に通じるものを感じました。
法で裁かれない罪でも世間では裁かれる。心を病んだ彼は自殺未遂をおこし、氷室の亡霊をみることになります。
美術サークルの顧問・宇佐美先生の言葉が胸に刺さりました。
この世に罪のない人間なんていない。自分だけは罪はないと言い切れる奴は、気づかないふりがうまいだけだ
小さな罪から大きな罪まで。本当に、この世に罪のない人間なんていないのかもね。
・・・と言う私も、過去を振り返ってみると清廉潔白というわけではありません。後悔していることもたくさんあるし。
『イノセンス』を読んで、自分の罪を棚にあげて人を責めてはいけないと改めて思いました。責める資格があるのは被害者遺族などの当事者のみです。
簡単に拡散するSNSの恐怖も感じた。
周りの人の救済に号泣|バランスの良いミステリー感動作
星吾の周りの人たちの気持ちが温かかったです。彼を愛している家族、宇佐美先生、紗椰やバイト仲間の光輝・・・。
星吾の祖父と家族の言葉に号泣しました。
じいちゃんだけじゃない。母さんも、俊樹も、俺にとっても……お前は大切な宝物だ
『イノセンス』はミステリー仕立てで進んでいきます。途中、星吾が何者かに狙われたり、氷室の遺族があの人だったり・・・と。
そんな中で描かれる愛情にホロリとくるんだよね。
優しい結末と「救い」の絵
切なくも温かなラスト。結末にも号泣しました。星吾がアートコンクールに出展した絵のタイトルは『救い』です。
赤い海で溺れかけている少年が必死に空に向かって手を伸ばしていて、上空から少年の手を握りしめている誰かの腕が描かれた絵。
この手はナイフを握るためにあるわけではない
誰かを救うためにある手。たくさん苦しんだ星吾は周りの人の温かな手に救われたのです。
一番の救いになったのは、この絵に描かれたあの人の手だったんだね・・・。
タイトルの意味を考察&解説『イノセンス』に込められた「救済」
無罪や潔白という意味の「イノセンス」。充分に苦しんだ星吾に対しての「救済」を匂わせたタイトルです。
一見すると、「イノセンス」が示す無罪や潔白というのは星吾には当てはまらない言葉。でも、彼は加害者というわけではないんです。
言ってしまえば、彼もまた被害者なんだ。
助けてくれた人を見捨てて逃げるのは褒められたことじゃないけど、本当の加害者は彼を恐喝して氷室を刺した3人組です。
星吾と彼の家族は世間から制裁を受け、彼は大学生になってもずっと罪を引きずって生きていました。
彼をみていると、普通に人を愛したり、幸せに生きて良いんだよという思いが強くなる。
充分に苦しんだ星吾に対しての「救済」を匂わせたタイトル。作者・小林さんの温かな思いが伝わりました。