『人間失格』あらすじ・読書感想文と名言|共感できない!? 太宰治が伝えたいことと学んだこと
- 『人間失格』あらすじと読書感想文・レビュー
- 『人間失格』は太宰治の遺書!?
- 大庭葉蔵の波乱な人生
- 第一~第三の手記について
- 作者が伝えたいこと・学んだこと、タイトルの意味
- 名言・印象に残った言葉
ネタバレあります。ご注意ください。
人間、失格。
太宰治さんの小説『人間失格』あらすじと読書感想文です。共感できない、よく分からないとのレビューをよく聞く『人間失格』。
読みにくそう・・・と思っていたのだけど、意外とそうでもなかったです。
自分を見つめ直したくなった。『人間失格』なかなかに深い作品だね。
『人間失格』は太宰治の遺書!?
『人間失格』は太宰治の遺書とも言われるほど、葉蔵に作者自身を重ねて描かれているようなところがあります。
様々な女性関係、自殺未遂、薬物中毒で入院・・・と、言わば転落人生。
まさに太宰治の半生そのもの!?
「恥の多い生涯を送ってきました」 と書かれいる通り、葉蔵の半生は決して明るいものではありませんでした。
「狂人」 という評価、共感できないと言われるのもわかる。
太宰治は『人間失格』完成の1ヶ月後、自ら命を絶ったと言います。波乱に満ちた人生の最後の作品となった『人間失格』。
今も多くの人に読まれ続けているのは、葉蔵の自堕落な半生の中に惹き付ける何かがあるのかもしれません。
『人間失格』あらすじ&本の目次
転落していく男の半生
東北の名家に生まれた成績優秀な青年・大庭葉蔵の手記。3枚の写真と共に渡されたそれには、彼の陰惨な半生が描かれていた。他人がどう思っているかわからず、自分を偽ってきた少年時代。次々、女性と関わりを持ち、やがて酒と薬物に溺れていくのだった・・・。
『人間失格』読書感想文
スラスラ読めました。想像していたよりは面白かった。
『人間失格』は京橋のスタンド・バアのマダムから見せられた3冊のノート (大庭葉蔵の手記) を中心に書かれています。
- 「はしがき」 と 「あとがき」 は、マダムから3枚の写真と3冊のノートを渡された私の視点
- 「第一、第二、第三の手記」 は、大庭葉蔵の視点
葉蔵のことを、本書の私は 「この手記を書き綴った狂人」、マダムは 「神様みたいないい子」、当の葉蔵はというと 「人間、失格」 と、それぞれ違うのが興味深い。
このことについては、作者が伝えたいこととして後ほど詳しく書いています。
共感できる、できない? 大庭葉蔵の波乱な人生
手記を綴っている人物・大庭葉蔵に共感できなかった・・・。こういう風にしか生きられなかった葉蔵が可哀想です。
もしかしたら、男の人の方が彼に共感できたりするのかな。
どちらかというと、本書の登場人物・私が思う葉蔵に近い印象を持ちました。「この手記を書き綴った狂人」 というの。
自らを偽って過ごした幼少時代は可哀想だったけど、お酒に溺れて、果ては薬にまで手を出す。落ちるところまで落ちた人生でした。
第一の手記|道化を演じた幼少時代
「第一の手記」 冒頭が印象的です。
恥の多い生涯を送って来ました。自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。
他人の考えてる事が理解できない葉蔵は、いつもビクビクして過ごしていました。やがて自分の身を守るために道化を演じ始めるのです。
本当のことを言わず、ひたすら無邪気を装う。
まるで笑う道化師・・・。仮面の下は笑っていません。ふと、道尾秀介さんの『笑うハーレキン』を思い出しました。
『笑うハーレキン』では、ピエロと道化師 (ハーレキン) の違いが書かれているところが面白かったです。
一説によると、道化師の顔に涙マークを描くとピエロになるとか。
葉蔵も周りの人を笑わせますが、心の中では泣いていたのかもしれませんね。・・・切なくなりました。
第二の手記|様々な出会い
中学生になった葉蔵は演じきっていた道化で、すっかり学校の人気者になっていました。でも竹一に道化を見破られてしまいます。
ちょっとしか出てこない竹一ですが、彼の言葉はその後の葉蔵の人生を左右するのだから鋭いですね。
「お前は、きっと、女に惚れられるよ」
「お前は、偉い絵画きになる」
竹一の予言ともとれる言葉通りに葉蔵は女にモテ、偉い絵画きにはならなかったけど、漫画を書いたりする。
やがて東京にでた葉蔵は堀木正雄と出会います。彼は葉蔵に 「酒」、「煙草」、「左翼運動」 など様々なことを教えました。
自分の人生って、出会った人に影響されるよね。
この頃から葉蔵の転落人生が始まったように感じます。ツネ子との入水自殺未遂、彼は精神を病んでいきました。
第三の手記|転落人生
「第三の手記」 が1番読むのが辛かったです。葉蔵には同情しますが、1ミリも共感できませんでした。
女と酒に溺れ、モルヒネ中毒になり、脳病院に入院させられます。廃人同然となった葉蔵は自分を 「人間、失格」 と確信する。
ため息しか出てこなかった。
特にヨシ子が汚されたところ。彼女を助ける事もせずに屋上に戻った葉蔵を、ぶん殴りたくなりました。
作者が伝えたいこと・学んだこと、タイトルの意味
『人間失格』というタイトル、インパクト大ですね。そのまま葉蔵を表しています。でも、彼は本当に人間失格なのだろうかと考えたくなりました。
- 作者が伝えたいこと・学んだこと→自分の評価と他人の評価は違うということ。
- タイトルの意味→葉蔵は本当に人間失格なのか?
作者が伝えたいこと・学んだこと、タイトルに含まれた意味を考察。順番に解説します。
作者が伝えたいこと・学んだこと|自分の評価と他人の評価は違う
葉蔵が最後に自分を評価した名言があります。
人間、失格。もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました
第三の手記・二に書かれている一文。当時27歳で脳病院に入れられたときでした。
葉蔵は自分のことを「人間失格」と言うけど、他の人から見た彼の評価はちがうんだ。
マダムは 「神様みたいないい子」 と葉蔵のことを評しています。本書の登場人物・私は 「この手記を書き綴った狂人」 と言いますが、葉蔵とは会っていません。
- マダム→葉蔵を実際に見てきた他人
- 本書の私→葉蔵を実際に見てない他人 (読者)
葉蔵が自分を1番下に評価してるね。ダメ人間、いや人間ですらないと。
自分が思っている自分と他人が思っている自分は違う。でもどちらも自分なんです。
マダムが 「神様みたいないい子」 と言うように、人というのは一言で評価できるものではないというのを暗に感じました。
タイトルの意味|葉蔵は人間失格なのか?
『人間失格』というタイトルの意味を考えるとき、1つの疑問が浮かびました。
葉蔵は本当に人間失格なのか?
葉蔵の手記を通して見えてきたのは、人間の弱さです。酒、女、薬、自殺未遂・・・。一歩道を踏み外せば あとは真っ逆さま。
でも人はみんな何かしら弱い部分を持ち合わせているものだよね。
彼の場合は育った環境にもよるのかも。ずっと 「よい子」 を演じなければいけなかったから。
幼少期から相手の顔色を伺いながら生きてきた。それは大人になってからも変わらなかったのかもしれません。
手記には、葉蔵がたくさん悩みながら生きてきたことが書かれています。その姿には胸が痛みました。根っからの悪いヤツではないんです。
だから彼のことを 「人間失格」 だとは思わない。
逆に 「人間失格」 と言いたいのは、悪いことを平気でする人。人の痛みが分からない人です。
名言・印象に残った言葉
名言・印象に残った言葉はいろいろありました。葉蔵が自分を 「人間、失格」 と言った言葉も、マダムが 「神様みたいないい子」 と言った言葉も。
その中でドキッとした一文があります。葉蔵の心の声です。
「世間というのは、君じゃないか」
葉蔵の女道楽に対して、堀木の 「世間が、ゆるさない」 と言った言葉に反論しそうになったときの心の声。
世間=個人。
よく世間体がどうのという言葉を聞きますが、結局気にしてるのは言った本人なんですよね。そのことに気づきました。