『リボルバー』ネタバレ感想文・あらすじ|ゴッホとゴーギャンを描いたアート小説|原田マハ
- 『リボルバー』あらすじと感想文
- ゴッホを撃ち抜いたリボルバー
- 浮上した他殺説
- ゴッホとゴーギャン|印象派画家の人生
- 小説を読んで絵画鑑賞
- 「ヴァエホの肖像」について
ネタバレあります。ご注意ください。
誰が引き金を引いたのか?
原田マハさんのアート小説『リボルバー』読書感想です。ゴッホを主軸にゴーギャンを描いた物語・・・と言っても良いかもしれません。
画家のことを知らなくても楽しめて、読むともっと知りたくなる。
めちゃめちゃ面白かったよ。
ゴーギャンのことはあまり気にしていなかったけど、『リボルバー』を読むと気になる人物に変わりました。こういう感覚、原田さんの小説ではお馴染みなんですよね。
程よく史実を絡めていて、人物描写が上手いんだ。
『リボルバー』あらすじ
原田マハ、アート小説
パリ大学で美術史の修士号を取得した高遠冴は、小さなオークション会社CDC(キャビネ・ド・キュリオジテ)に勤務している。高額の絵画取引に携わりたいと願っていた冴の元にある日、錆びついた一丁のリボルバーが持ち込まれた。それはフィンセント・ファン・ゴッホの自殺に使われたものだという。ゴッホは、ほんとうに自ら命を絶ったのか?ゴッホとゴーギャン。生前顧みられることのなかった孤高の画家たちの、真実の物語。
『リボルバー』ネタバレ感想文|孤高の画家・ゴッホ×ゴーギャン
『リボルバー』はゴッホとゴーギャンが描かれています。ゴッホが主軸になっているけど、ゴーギャンに重きをおいた物語でした。
- フィンセント・ファン・ゴッホ・・・代表作に「ひまわり」の絵画。作品の多くは、彼の死後に評価された
- ポール・ゴーギャン・・・ゴッホが感銘を受けた画家。アルルで共同生活を送り、仲違いしてしまう
アルルでの共同生活は、ゴッホもゴーギャンもお互いの絵に影響を受けたんだね。
その2ヶ月間はとても濃いものだったに違いありません。印象派画家ゴッホを知る上でゴーギャンは外せない人物だと感じました。
原田さんのアート小説『たゆたえども沈まず』では、弟テオとともにゴッホのことが詳しく描かれています。
両方読むと良いよ。
ゴッホを撃ち抜いたリボルバー
主人公はオークション会社CDC(キャビネ・ド・キュリオジテ)に勤務している高遠冴。CDCに持ち込まれたリボルバーにより、孤高の画家ゴッホの物語が展開されます。
「あのリボルバーは、フィンセント・ファン・ゴッホを撃ち抜いたものです」
ゴッホを撃ち抜いたリボルバー!?
とてつもないものが出てきたと思ったら、物語はさらにトンデモな方向へ向かうんです。ゴッホ他殺説という。・・・まぁ、それは後ほど。
史実ではゴッホは自ら命を絶ったとされているよね。
この錆びついたリボルバーが本当にゴッホに関わりがあるものか調べ始める冴。もしそれが証明されれば、CDC史上最高価格で落札させることができるかもしれません。
冴を通して原田さんのゴッホやゴーギャンを思う情熱を感じられました。・・・それはとても心地よい読書体験。
どうやら、ゴッホと根深い関係にあるゴーギャンが「リボルバーの謎」を解くキーとなるようです。
「もうひとつのリボルバー……というのは、ひょっとすると、サラが持っている『ゴーギャンのリボルバー』のこと……でしょうか」
ゴーギャンのリボルバーがゴッホを撃ち抜いた?
・・・ということは、他殺説も浮上してきますね。さらに面白くなってきました。
実は、ゴッホを撃ち抜いたリボルバーは実際に発見されていてオークションで落札されているんです。パリで競売にかけられ、13万ユーロ(約1579万円)で落札。予想価格の2倍以上だったといいます。
原田さんの小説は史実を絡めているから面白いんだ。
ゴッホはゴーギャンに殺された?|浮上した他殺説
思わぬところに浮上したゴッホ他殺説。しかも彼を撃ち抜いたのはゴーギャンという展開です。
「ファン・ゴッホは殺されたのよ。ゴーギャンに。─あのリボルバーで撃ち抜かれて」
リボルバーを持ち込んだ女性画家・サラの言葉にドキッとしました。
サラはゴーギャンの孫!?しかもゴーギャン犯人説。
ミステリー仕立てで面白い展開です。目撃者がいないから、実際はどうだったかなんて本人しかわからないわけで・・・。こういう展開もあり得るのかと想像が膨らみました。
サラの回想、母のヴァエホについて、原田さんが描くゴーギャン像・・・。リアル感があって物語に引き込まれます。
アルルでの共同生活以来、仲違いしたゴッホとゴーギャン。ゴッホの耳切り事件は有名ですね。ゴーギャンの方が嫌になってアルルを離れたようです。
彼の情熱は冷めていた?
もしかしたら、どんどん先へいくゴッホに対してのコンプレックスがあったのかもしれません。
ゴッホとゴーギャン|2人の印象派画家の人生
ゴッホとゴーギャン、2人の印象派画家の人生に思いを馳せました。
想った相手には受け入れられず家庭を築くこともできなかったゴッホ。世間にも評価されず、やがて精神を病み、終いには自ら命を終わらせてしまう。
対してゴーギャンは、家庭を築いて5人の子供を授かる。女性に対して奔放で次々相手を変えていた。
ゴーギャンの女グセには顔をしかめちゃった。
一見、ゴーギャンの方が幸せな人生を送っていたかに思えるけど、『リボルバー』では決してそうではなかったかもしれないことも書かれています。
ファン・ゴッホは、弟テオとその妻の不屈の情熱に支えられて世に出た。対してゴーギャンは、5人もの子供がいたけど彼の芸術のために親身になって尽くしてくれる身内は存在しなかった。
ゴーギャンの心情(原田さんの創作?)が描かれているのも目を引きました。・・・ゴーギャンは、もしかしたらゴッホを前にして苦しんでいたのかもしれません。
私は、彼に追いつきたかった。できることなら、追い抜きたかった。彼にだけは負けたくなかった。どうしても
同じ画家として、ゴッホの才能を間近で見てきたゴーギャンです。彼が命を絶ったあとはもう超えられなくなり、苦しんでいたかのような描写・・・。
ゴーギャンも名前を残したすごい画家で、さらに上をいくゴッホ。この2人がアルルで共同生活を送っていたのだから興味がわきます。
小説を読んで絵画鑑賞&「ヴァエホの肖像」について
やっぱり検索して、ネットでにわか絵画鑑賞をしました。これも原田さんのアート小説では恒例の行事。検索したのは3作品です。
- ゴッホ「ひまわり」
- ゴーギャン「我々はどこから来たのか?我々は何者なのか?我々はどこへ行くのか?」
- 「ヴァエホの肖像」
ゴーギャン「ヴァエホの肖像」だけ見つからず。これは原田さんの創作?ヴァエホという幼妻がゴーギャンの子どもを身ごもっていたのは事実(『リボルバー』ではサラの母)のようです。
「ひまわり」フィンセント・ファン・ゴッホ
ゴッホと言えば「ひまわり」。「ひまわり」と言えばゴッホ。それくらい有名な作品ですね。力強い黄色が印象的です。
『リボルバー』の主人公・冴を通して描かれた原田さんの言葉が素敵でした。
花のひとつひとつに個性があった。息を止めてサラは見入った。そして、これは花じゃない、と思った。─人だ。十五人の個性的な人々。笑い、歌い、喜び、くつろぎ、あくびし、黙考し、恋をして、生きている。全部、違う。全員、すてきだ。─ひまわりのような人間たちだ
好き勝手にあっちこっち黄色い顔を向けている「ひまわり」が、まるで人のように見える。・・・原田さんの感性が素敵です。
この文章を読んだら、ゴッホの「ひまわり」が見たくなって検索しちゃった。
ほんとだ。人に見える・・・。
「我々はどこから来たのか?我々は何者なのか?我々はどこへ行くのか?」ポール・ゴーギャン
本書でふれていたゴーギャンの絵「我々はどこから来たのか?我々は何者なのか?我々はどこへ行くのか?」。タヒチで描かれた作品です。
すごいタイトルだね。
右から左へと描かれた3つの人物像が、この作品の題名を表しているようです。ゴーギャンの死生観を描いたものと言われている絵。
このあとゴーギャンも自ら命を絶とうとするんです。失敗に終わったけど・・・。
人は生まれて死へ向かう。
一枚の絵に人の人生が描かれているようで、マジマジと魅入ってしまいました。タイトルを意識して鑑賞すると圧倒されますね。
想像で楽しむ「ヴァエホの肖像」
「ヴァエホの肖像」は原田さんの創作のようでした。その絵画がポール・ゴーギャンの真筆だと証明することを冴に託し、物語は終わります。
・・・なので、「ヴァエホの肖像」は原田さんの文章を元に想像で鑑賞。
濃い草いきれ、地面にはびこる青い苔、湿ったあたたかな風。黒髪に映える白い花冠、若々しい褐色の肌と白いパレオのコントラスト。羽の団扇が揺れるたびに、ふわり、ふわりといい匂いが送られてくる。そして、彼女─ヴァエホの目は熱を帯びてきらめいている
原田さんの文章を読むと、本当に「ヴァエホの肖像」が存在しているような気になるからすごいです。それを描いているゴーギャンが目に浮かぶようでした。
きっと、冴が「ヴァエホの肖像」はゴーギャンの真筆であると証明し、CDCにてオークション史上最高落札価格を記録。
そんな未来が想像できるラストだった。
ゴッホとテオが描かれた小説『たゆたえども沈まず』もおすすめ
ゴッホとゴーギャンが描かれた『リボルバー』を読んだら(読む前でも)『たゆたえども沈まず』もおすすめです。
ゴッホの絵画「星月夜」が描かれてるよ。
『たゆたえども沈まず』はゴッホを中心に弟テオとの関係が細かく描かれている小説です。切なさがあとを引き号泣しました。『リボルバー』とともにおすすめです。