『少年の日の思い出』ヘルマン・ヘッセ|教科書のあらすじ&感想文|作者が伝えたいこと

- ヘルマン・ヘッセ『少年の日の思い出』あらすじと感想文
- 苦い思い出と時系列
- ぼくとエーミール
- 印象に残っている言葉
- エーミールの視点
- 【考察】なぜ自分の蝶をこなごなにしたのか
- 【解説】作者が伝えたいこと
そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな
ヘルマン・ヘッセ『少年の日の思い出』感想です。中学1年生の教科書に掲載されていて 馴染みある作品。『もう一度読みたい 教科書の泣ける名作 再び』の中に収められている1話を読みました。

懐かしい。
最後に考察 (少年はなぜ自分の蝶をこなごなにしたのか) と、解説 (作者が伝えたかったこと) についても書いています。
ヘルマン・ヘッセ『少年の日の思い出』教科書のあらすじ
教科書の名作
彼は少年だった頃の苦い思い出を語りはじめた。 チョウやガの収集をしていたこと、中庭の向こうに住んでいたエーミールのこと。そして、エーミールが捕まえたヤママユガのこと・・・。
ヘルマン・ヘッセ『少年の日の思い出』教科書の感想
中学1年生が読むには けっこうインパクトがありますよね。・・・そういえば 初めて読んだときは、あまり好きじゃなかった。
そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな。
未だにこの言葉が忘れられません。もはやトラウマレベルです。
過去の苦い思い出
物語は大人になったぼく (主人公を訪ねた客) が過去を回想する形で進んでいきます。訪問先でチョウの収集を見たことで苦い思い出がよみがえる。

彼はなぜ語りだしたの?

誰かに聞いてもらいたかったんじゃないかな。
思い出って いつしか美化されて、恥ずかしかったことや失敗したことも美しく感じることが多い。でも彼にとって少年の日のあの出来事はそうではなかったようです。
時系列に出来事をまとめました。
- 先生の息子・エーミールが珍しいヤママユガをつかまえる
- ぼくは どうしても見たくなりエーミールの家を訪れたが、彼はいなかった
- 気の迷いか、ぼくはヤママユガを持ち出して (盗んで) しまう
- ぼくは思い直して元に戻すが、ヤママユガは壊れてしまった
- その日のうちに、ぼくはエーミールに謝りに行く
- エーミールは ぼくを軽蔑する
- ぼくは 自分のチョウやガの収集を粉々にしてしまう
エーミールに軽蔑されたことが、ぼくにとっては悔しく苦い思い出になったのですね。
ぼくと対象的なエーミール
ぼくと対象的なエーミール。彼は非のうちどころがない、あらゆる点で模範少年です。ぼくは彼をねたみ、憎んでいました。
初めて『少年の日の思い出』を読んだとき、穏やかならぬものを感じました。相手がエーミールでなかったのなら、ここまで苦い思い出にはならなかったのかもしれません。
羨ましがったり妬んだり。他人と自分を比べてしまうと、そんな感情が生まれます。仕方ないことだけど・・・。
人は人、自分は自分。他人と自分を比べると不幸になる。

私は自分にそう言い聞かせて、他人と自分を比べないようにしているよ。
完璧な人間なんていなくて、みんなどこか欠けている。シルヴァスタインの絵本『ぼくを探しに』を思い出しました。

完璧でなくても良いんだということを教えてくれた絵本です。
ぼくが しでかしたこと (ヤママユガを壊してしまった) は悪いことだけど、ちゃんと謝りに行ったのはエライですね。
印象に残った言葉 「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」
ぼくの気持ち。
盗みをしたという気持ちより、自分がつぶしてしまった美しい珍しいチョウを見ているほうが、ぼくの心を苦しめた
ヤママユガを盗んだことよりも、壊れてしまったヤママユガに対して心を痛めているぼく。エーミールに対しての贖罪というよりも、ヤママユガに対しての贖罪です。

反省してる? 盗むのも壊すのも悪いことだよ。
謝りに行ったぼくに放ったエーミールのひとことが 今でも印象に残っています。
そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな
当たらずといえども遠からず。
ぼくはヤママユガを壊されたエーミールの気持ちよりも、壊れたヤママユガを見て胸を痛めているのだから。

うーん。やっぱり君はそんなやつなのかもね。
エーミールの視点と打ちのめされたぼく
『少年の日の思い出』は ぼくの視点で描かれています。でもこれがエーミールの視点での小説だったら、どんなふうに描かれるのかな。
- チョウやガをキレイに収集する彼のこだわり
- ヤママユガを捕まえたときの嬉しい気持ち
- ヤママユガが壊されたときのショックな気持ち
- ぼくにあの言葉を放ったときの気持ち
もしもエーミールの視点だったら、このようなことが描かれていたかもしれません。
ぼくの視点で読むとエーミールは淡々としているように感じるけど、様々な感情があったはずです。
ヤママユガを壊されたエーミールの気持ちはいかほどだったのか。
きっと怒りでいっぱいで、どうやったらぼくを傷つけることができるか考えた末の 「そうか、そうか、つまり君は・・・」 だったのではないかと。
【考察】ぼくはなぜ蝶をこなごなにしたのか
ラストが印象的でした。
エーミールに打ちのめされたぼくは 自分の大切なチョウやガの収集をこなごなにしてしまいます。

ぼくはなぜ蝶をこなごなにしてしまったんだろう。
ぼくの気持ちがわかるような気がします。エーミールに軽蔑されたことがよっぽど悔しかったんだろうな。
きょうまた、君がチョウをどんなに取り扱っているか、ということを見ることができたさ
こちらはエーミールがぼくに言った言葉です。ぼくは チョウやガを雑に扱う奴とレッテルを貼られてしまいました。
そして チョウやガをいくらキレイに収集しても エーミールのそれには叶わない・・・。悔しさと劣等感が伝わってきます。
ぼくにとってエーミールは 良くも悪くも大きな存在だったのですね。
【解説】作者が伝えたいこと
壊れたものはもう元に戻すことは叶わないということ。
こんな一文がありました。
そのときはじめてぼくは、一度起きたことは、もう償いのできないものだということを悟った
不可逆性変化です。壊れてしまったもの (ヤママユガ) は もう元通りに戻せません。後悔しても嘆いても、もうどうしようもない。
不可逆性変化については、道尾秀介さんの小説『staph スタフ』でも扱っていました。

カタチあるものは いつかは崩れてしまう。世の中の道理ですが、儚いものですね。一度壊れてしまえばもう元には戻らない。だからこそ大切に扱いたいです。


