『神の手』あらすじ・ネタバレ感想文|安楽死用薬ケルビムの魅力とセンセイの正体は!?衝撃の結末

- 『神の手』あらすじと感想文
- テーマ、安楽死について
- JAMA(日本全医療協会)の思惑とポストマ事件
- タイトルの意味と解釈
- 安楽死専用薬「ケルビム」について
- 衝撃の結末”センセイ”の正体
ネタバレあります。ご注意ください。
安楽死か、延命か―。
久坂部羊さん『神の手』感想です。文庫版で上下巻とボリューミーだけど、全く気にならずページをめくる手が止まりませんでした。
安楽死を扱った『神の手』。

久坂部さんはお医者さんなんだね。どうりでリアル感があったよ。
医師の目線で描かれているからか、リアルさを感じました。ミステリー要素もあって面白かったです。
『神の手』あらすじ
テーマは安楽死
外科医・白川は 21歳の末期がん患者・古林章太郎の激痛を取り除くため安楽死を選んだ。だが章太郎の母・康代はそれを告発した。殺人か過失致死か、状況は限りなく不利だったが謎の圧力で白川は不起訴になった。背後に安楽死法制化の画策と世論誘導を行う “センセイ” の影が・・・。
『神の手』ネタバレ感想文
もしも日本で安楽死が認められたら、どうなるんだろう。
タイトル「神の手」に込められた意味にヒヤリとしました。神の手になるか、それとも死神の手か。それは紙一重なのかもしれません。

法制化のために裏で画策する人たちが描かれていたよ。
安楽死法推進派vs反対派。JAMA(日本全医療協会)の思惑とポストマ事件・・・。
自分の意志とは関係なく巻き込まれてしまう主人公が可哀想になりました。こんな風になったら怖いですね。

安楽死専用薬「ケルビム」は魅力を感じなくもないけど。
テーマは安楽死

『神の手』小説のテーマは安楽死です。
末期ガンで苦しむ古林章太郎の激痛を取り除くために、安楽死を選んだ外科医・白川。でも日本では法的には認められていません。
・・・だから もし行えば医師は殺人罪に問われてしまうんです。
患者の苦痛を取り除いてあげたいけど、自分が罪に問われてしまう。法律の壁は医師や患者を苦しめていました。
もしも安楽死が認められていたら?

患者さんも医師もこんなに苦しむことはなくなるのかな。
『神の手』は安楽死について深く掘り下げていました。
- オランダでは安楽死が認められていて、望む人がたくさんいること
- 日本からもオランダへ行って安楽死をとげる人がいること
- 日本では認められていないから、医師がジレンマに陥っていること
誰でも最後は安らかに逝きたいと願うんじゃないかな。ベッドの上で苦しみながら延命をするよりも早く安らかになりたいと・・・。
『神の手』を読みながら深々と考えずにはいられませんでした。
安楽死法推進派vs反対派
外科医・白川は安楽死を行ったことで、知らずのうちに安楽死法制化の激流に巻き込まれていきます。
安楽死法推進派vs反対派
法制化の裏には、それぞれの自分勝手な思惑があふれていました。政治的要素が盛りだくさんで吐き気がするほどです。

なんだかなぁ。ほんとうに患者さんのことを考えているのは白川だけだ。
JAMA(日本全医療協会)の思惑とポストマ事件
白川を利用して法制化に乗り出す安楽死推進派のJAMA(日本全医療協会)。
白川は安楽死を行ったことで罪に問われていたけど、圧力でもみ消されました。JAMAと佐渡原の背後にいる”センセイ”の思惑が渦巻いてドキドキです。
オランダで安楽死容認運動のきっかけとなったポストマ事件になぞらえたわけですね。
白川が行った安楽死をきっかけにして世間が注目し、一気に法制化に持ち込む。その結果、彼の意図しないところで徐々に法制化は進みます。もはや流れはとめられません。

JAMA主催のセミナーが怖かった。
神武レジェンド製薬のMR・村尾士郎が実演した「ケルビム」のデモンストレーションにヒヤリとしました。
「ケルビム」は、神武レジェンド製薬が開発した安楽死に使う薬です。それを初めて人に試すデモンストレーション。・・・この辺りは一気読みでした。
タイトル 「神の手」 に込められた意味

「神の手」とは、安楽死を行う医師の手を指しています。
安楽死を執り行う医師は、”神の手” を預託された存在なのです!
日本の医師は今まで患者の苦しみから目をそらし、むなしい希望でごまかしてきた。結果、患者は苦しみを経た上で死ぬという最悪の事態になる。安楽死で患者を救うことは医師の使命。
JAMA代表・新見の考えです。なんだか宗教みたいですね。「神の手」と言いはる新見に奢りを感じました。
神の手は安楽死をする手なのか、延命をする手なのか。
安楽死によって「神の手」になるか「死神の手」になるかは紙一重。安楽死というのは、裏を返せば殺人なんですよね。
覆る概念|安楽死専用薬「ケルビム」
神武レジェンド製薬が法制化に先がけて開発した薬が魅力に満ちていました。
安全・快適・確実な安楽死を保証する画期的な注射薬、安楽死専用薬「ケルビム」です。
ケルビムは、いわばそれまでの死の概念を根本から覆したようだった。死は苦しいもの、恐ろしいものという印象は薄れ、代わって安らぎと解放のイメージが与えられた
安らいだまま逝けるなら、死は怖くなくなるかもしれませんね。ちょっぴり魅力に感じてしまいます。でも白川の言葉が心にチクッと刺さりました。
ほんとうにそれでいいのだろうか。
もしも死の概念が「怖いもの」→「安らぎ」に変わったら、死に急ぐ人たちが出てくるかもしれません。

生きていることの喜びが薄れてしまう?それはそれで恐ろしい。
以前に読んだ野崎まどさんの小説『know』を連想しました。

『know』では、ラストに死後のことを知ることができる世界が描かれていました。知ってしまえば怖くない。『神の手』とは違うけど、両方とも最後に安らぎを感じるというのが魅力です。

死の概念が覆った小説だった。
結末に驚愕!影の黒幕”センセイ”の正体
ずっと佐渡原を影であやる人物”センセイ”の存在が気になっていました。安楽死を法制化しようと画策した黒幕です。
“センセイ”は、神武レジェンド製薬のMR・村尾士郎。
安楽死法制化の裏には、開発薬「ケルビム」を広めるための思惑があったのですね。セミナーでは自らを犠牲にしてデモンストレーションまでした村尾(←犠牲にはならなかった)。

村尾の執念がすさまじい。
『神の手』はテーマが深くて読みごたえがある小説でした。おすすめです。



