『復讐の協奏曲(コンチェルト)』あらすじ・ネタバレ感想文|御子柴礼司シリーズ5|中山七里
- 『復讐の協奏曲』あらすじと感想文
- 逮捕された洋子
- 揺れ動く御子柴弁護士
- かつての園部信一郎と御子柴礼司
- 圧巻の法廷シーン
- 洋子はなぜ御子柴に近づいたのか
ネタバレあります。ご注意ください。
君が殺人を犯していようがいまいが、必ずそこから出してやる
中山七里さんの小説『復讐の協奏曲(コンチェルト)』読書感想です。悪辣弁護士・御子柴礼司シリーズ5作目。
今回、御子柴が弁護を引き受けるのは事務員の洋子でした。
このシリーズは面白くて、欠かさず読んでる。
かつて少女を惨殺した過去を持つ弁護士・御子柴礼司が、法廷で逆転劇をくり広げるストーリーです。彼の生き方が興味深いんですよね。
シリーズの読む順場はこちらの記事↑にまとめてるよ。
『復讐の協奏曲』あらすじ
悪辣弁護士・御子柴礼司シリーズ5
30年前に少女を惨殺した過去を持つ弁護士・御子柴礼司。事務所に“この国のジャスティス”と名乗る者の呼びかけに応じた800人以上からの懲戒請求書が届く。処理に忙殺されるなか事務員の洋子は、外資系コンサルタント・知原と夕食をともに。翌朝、知原は遺体で見つかり、凶器に残った指紋から洋子が殺人容疑で逮捕された。弁護人を引き受けた御子柴は、洋子が自身と同じ地域出身であることを知り・・・。
『復讐の協奏曲』ネタバレ感想文
『復讐の協奏曲(コンチェルト)』は、2つの事件が描かれています。
- 事務員の洋子が知原の殺害容疑で逮捕される
- 〈この国のジャスティス〉と名乗る者の呼びかけに応じた800人以上の人々からの懲戒請求書が届く
同時進行で洋子の裁判と〈この国のジャスティス〉の正体を暴く展開が面白かった。
事務員の洋子が逮捕されて、彼女の代りに御子柴弁護士の元に遣わされたのが宝来さん・・・というのには苦笑いしたけど。
広域暴力団宏龍会の山崎岳海もこのシリーズに登場していたのですね。彼は『ヒートアップ』で麻薬取締官の七尾とコンビを組んでいました。
登場人物のリンクは嬉しいよね。
逮捕された洋子
御子柴礼司シリーズは、彼の周りの人を弁護するストーリーが描かれたものもあってドキドキします。
稲見教官、御子柴の母・・・ときて、今回は彼の事務所のスタッフ・洋子です。
彼女の容疑は、外資系コンサルタント・知原の殺人。凶器には洋子の指紋がついていました。
御子柴の言葉がカッコイイ
「君が殺人を犯していようがいまいが、必ずそこから出してやる」
・・・イヤイヤイヤイヤ、殺人を犯していたら出しちゃダメだし。御子柴さんなら有罪でも無罪にしちゃいそうな勢いだけど。
でも洋子が罪を犯したなんて信じられないよ。
有能なスタッフです。ただ、御子柴のことをどう思っているのかは謎・・・。改めてスポットが当てられると彼女のことが気になりました。
洋子の過去
御子柴がかつて世間を騒がした〈死体配達人〉と知っても淡々としている洋子。今までは彼女にスポットが当てられてなくて未知の存在でした。
いったいこの女は、自分の何を知り、どんな理由で離れずにいるのだろうか
御子柴と同じく私も不思議に思っていました。『復讐の協奏曲』では、洋子の過去や御子柴をどう思っているのかも明かされているんです。
プロローグに、洋子は佐原みどり(御子柴が殺めた被害者)の友だちだった過去が描かれているんだ。
七里さんの小説だから、プロローグで描かれた彼女は、実は別の洋子じゃないかとか疑ってしまいました(笑)・・・深読みしすぎ。
紛れもなくプロローグで描かれているのは、御子柴の事務所で働く洋子です。
彼女は御子柴が自分の友だちを殺めた〈死体配達人〉だと知った上で事務員に応募しました。
最初から全て知っていたんだね。彼に近づいたのは復讐のため?
彼女の真意がわからず、読むのを止められません。無罪を証明するための過程や裁判も面白かったけど、何よりも洋子の気持ちが明かされてホッとしました。
揺れ動く御子柴弁護士
洋子の弁護を引き受けて初めて、彼女のことを何も知らなかった事実に気づく御子柴。他人に関心を持たない彼が浮き彫りにされていました。
この事件に着手してからというもの、何度も味わった不甲斐なさをまたも感じる。 自分はいったい洋子の何を見ていたのだろうか
この描写に、御子柴の人間味を感じたよ。
人との関わりを嫌う御子柴が身内の弁護をすることで他人の内面に触れていきます。長年一緒に働いてきた洋子、過去作では稲見教官や母親も・・・。
回を重ねるごとに人間味が増しているように感じました。
不甲斐なさや、うろたえる姿とか。彼の感情が揺れ動いている描写を読むと安心するんだよね。
かつて幼女を惨殺した御子柴のことは到底理解できなくて、理解できないものほど怖いものです。でも感情が揺れ動くのは理解できるからかもしれません。
かつての園部信一郎と、今の御子柴礼司
洋子の過去をたどる御子柴は、かつて自分が園部信一郎として事件を起こした地へ赴きます。そこで感じた人々の温かさ・・・。
「高峰さんは言ってた。長い年月の間に何があったかは分からないけれど、もう昔の園部信一郎くんじゃない。依頼人のためなら自分が汚れるのも厭わないあなたは全く別の人間なんだって」
名前を変えた御子柴が、かつて事件を起こした園部信一郎だと知りながら証言してくれた人々がいました。
今の彼を見て、昔の園部信一郎とは違うと・・・。
リアルではなかなかそうはいかないだろうけど、ジーンとするね。
圧巻の法廷シーン
御子柴礼司シリーズ、やはり今回も圧巻の法廷シーンです。これもシリーズの醍醐味。
「今、この法廷の中で実際に人を刺した人はわたしを除いて一人もいらっしゃらないでしょう」
うひゃー、きたきた!と、変な叫び声をあげてしまいました(←めちゃめちゃ楽しんでいます)
実際に人を刺した人って、自分のことだよね。
ブラックジョーク!?笑えないし、びっくりするし、固まるわ!!
彼がかつての〈死体配達人〉ということは周知の事実。裁判官も検事も傍聴人にも知れ渡っています。
ギョッとしたけど、ここから巻き返す御子柴弁護士、さすがでした。
洋子はなぜ御子柴に近づいたのか
なぜ洋子は、御子柴が自分の友だちを惨殺した張本人だと知りながら事務員に応募したのか。
「君はウチに来る前から、わたしが元〈死体配達人〉であるのを知っていた。しかも佐原みどりの友人でもあった。それなのに、どうして長い間平然と勤め続けていた。毒を盛る機会などいくらでもあったはずだ」
毒を盛るどころか、有能なスタッフとして御子柴を助けながら働いた彼女。
今まで(過去作)を読んでも、御子柴に絶対的な信頼を寄せていることを考えても、洋子に復讐の意思はないことは明確でした。
・・・じゃあ、なぜ?
洋子は御子柴の姿をテレビで見て、今は別人に変わっているかもしれないと希望を抱いたのです。
正直、私は洋子のようには割り切れないかも・・・。
なかなか難しいことです。でも今の御子柴を理解してくれている人の描写は嬉しくもありました。
洋子の裁判に決着がつき、〈この国のジャスティス〉の正体もラストで明かされます。
まさに『復讐の協奏曲』だったよ。
今回の事件は全てが「復讐」で繋がっていました。被害者・知原を恨んでの犯行、御子柴を恨んでの懲戒請求書の呼びかけ・・・。
ただひとり、洋子だけは「復讐」とは無縁でした。御子柴は自業自得ということになるのか。
それをも受け入れる彼は、やはり昔の園部信一郎とは違うのかもしれませんね。